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[1] 三題噺
By 眠兎
03-14 00:28
三題によるテキスト創作企画。

私が勝手に決めた三つのワード『イチゴミルク、ロボット、ブックカバー』を用いて創作してください。
イチゴミルクはイチゴ牛乳、ロボットはアンドロイド、機械人間に変換可ですが必ずこのワードを創作物内に組み込む事。
小説、詩どちらでの参加でも可です。長さの規定はありません。仮企画なので期間も設けません。
投稿時には作者名、1レス内に収まらない場合は分かるように題名とNo.を明記してください。
注意する点としては、掲示板に直接書き込む場合は、他作者と重なる危険があります。そうならないように1レス以上の投稿時には一度メールなどに作成してから投稿する事をお勧めします。
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[2] By モラトリアム・デイズbyまお
03-14 14:41
 21世紀。
 今、私たちはその中にいるらしい。
 21世紀。
 色んな大人たちが夢の世界になると信じて疑わなかったそれは、いざやってきてみればただの今に過ぎなかった。
 21世紀。
 青い色した便利な猫たぬきロボットはおろか、宇宙旅行もままならない。異星人の襲来も私の知る限りあっていないようだ。
 21世紀。
 夢に成り損ねた夢の時代に生きる私は、
 一体何を――




――はぁ。
 私は溜め息をつきながら読んでいた小説をおいてベッドにべたっと倒れこんだた。まだ読み終わったわけじゃないけどブックカバーをはずしてみる。なんだか続きを読む気にならなかった。ちょっと昔まではどんな本でも素直に読めていたのに、今日はやけに小説のなかの矛盾であったり単純すぎるキャラクターが気になってしまう。加えてどーせうまくいくんだろうと邪推してしまうために純粋に楽しめないのだ。
「あぁ、SFなんかやめて恋愛ものにでもしとけばよかったかなぁ」
 小さく愚痴りながら立ち上がり、読みかけの小説を本棚に立掛けた。
「あ〜っ!」
 不満を吐き出すように、意味もなく声をあげつつベッドに倒れ込んだ。なんだかもやもやしてしょうがない。無駄に青い空にも、夢や希望を熱く語る小説の主人公達にも、学校のないたまの日曜日に用事もなくこうやって怠惰に時間を過ごしている自分にもムカついてしまう。
 誰もが何かをしなくちゃいけないと言うくせに、誰も何をすればいいかは教えてくれない。やりたいことがある人間はそれをやればいいんだろうが、そんなものをもっていない私はどうすればいいのだ。
――はぁ。
 私はもういちど溜め息を吐いた。こんなことを考えている時間が一番無駄だってことは勿論わかっている。やめようやめようとは思うのだが、十代を残り三年間弱しか残していない私は気ばかり急いてしまう。
 自分は、いったいどんな大人になるんだろうか。大人に、なれるんだろうか。
 ごろん、と半回転して仰向けになり、天井からぶら下がった電灯を見上げ、私は小さくつぶやくのだった。
「私には、この時間の流れは早すぎる」





「明里ちゃん、おやつたべる?」
 階下から声をかけられ、私は目を覚ました。いつのまにか寝ていたらしい。なんだか笑えた。私の悩みなんてそんなもんだ。
「明里ちゃーん?」
 ぼんやりしているとまた呼ばれた。いまいくー、と返しながらだるい体を引きずってリビングへと向かう。
 テーブルの上に、パックに入ったままのイチゴが置かれていた。大きなあくびをひとつしながら椅子に座る。
「何してたの?」
 背後から尋ねられて振り返ると、コーヒーが入ったコップを両手に持ったお母さんがキッチンから顔を出したところだった。
「寝てた」
 そっけなく返事をする。正直イチゴとコーヒーが合うかどうか甚だ疑問だったのだが、とりあえずスルーしてあげた。
「そう。せっかくの日曜だからね、ゆっくり休まないと」
 お母さんは笑顔で言って、私の前にコーヒーを置くと、私の向かい側の椅子に座った。
「うん。コレ、どうしたの?」
 コレ、とイチゴのパックを指差しながら尋ねた。お菓子と言えばおまんじゅうやらだんごやらを買ってくる母にしてはなかなかのチョイスだ。まぁ、コーヒーにはどちらにせよ合わないだろうが。お母さんはよくぞ聞いてくれましたと言うような顔で
「298円だったの。たまたま行った時間に安くなってて、思わずかっちゃった」 言いながら、イチゴに手を伸ばす。へぇ、と返しながら私もイチゴを一つ掴み、半分だけかじった。
 当然だけど酸っぱい。私はお母さんのようにコーヒー片手にいちごのすっぱさを楽しむという気分でもなかったから、立ち上がってキッチンに向かいながら
「練乳ある?」
 尋ねた。しかし
「ないわよ」
 答えは予想通り。仕方がないから、
「牛乳もらうね」
 答えを待たずに冷蔵庫から牛乳を取りだし、お皿と砂糖、スプーンを持ってテーブルに戻ってくる。
「半分は私のよ」
 私の意図を察したお母さんがそう言って、残ったイチゴを数え出す。まったく、子どものようだと思った。
「はいはい」
「8個までは好きにしたらいいわ」
「わかったから」
 適当に頷きながら、お母さんに言われた個数だけイチゴをお皿に移し、砂糖をまぶして牛乳をかける。まったく、いつもおとなしいくせにこと食べ物に関しては口煩いのだから困ってしまう。
 ふと、気になって、私は子どもみたいなお母さんに、尋ねた。大事だと思われないように、イチゴをスプーンでつぶしながらさりげなく。
「お母さんはさ、夢とかあった?」
「どうしたのよ、急に」
 イチゴを口に含みながら不思議そうにこちらを見てくる。
「いや、なんとなく。不満もなく主婦業こなしてるしさ」
 言うと、お母さんは笑った。そして、不満がないわけじゃないんだけどね、と前おきして、
「けど、私だって色んな夢みたわよ? 歌手に成りたかった時期もあれば、先生に成りたかった時期もあるし、看護婦さんにも憧れたわぁ」
 語る彼女は楽しそうだ。しかし、それはどれも現実味がないものに思われた。だから、聞いた。
「けど、今は主婦なわけじゃない? そこに関しては不満はない?」
 母さんは、驚いてそして、笑った。
「私には明里ちゃんが何で悩んでいるかはよくわからないけど、今が幸せなら夢がかなわなくてもわりと楽しいわよ? 夢なんて絶対なものでもないし、簡単に変わっちゃうんだから」
 私はイチゴを潰す手を止め、お母さんの言葉を真剣に聞いてしまった。
「今一番やりたいと思えることをがんばりなさいな。それがないなら探しながらのんびり過ごしてごらんなさい。生きていればいつか見付かるわ。あせらなくていいの。人生最後まで生きてみないと良い人生だったかなんて分からないんだから」
「うん」
 なんだかジンと来てしまった自分が悔しくて、私は顔も上げずにうなずいた。
 スプーンですくったイチゴみるくは、甘酸っぱくて、なんだか今の気持にぴったりだった。
 苦いコーヒーをすすりながら、さっきの小説を最後まで読んでやろう。私はそう思った。物語のおしまいにどんな奇跡が起きるのかしりたくなったのだ。
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[3] By イノセント・ポテンシャルbyまお
03-14 14:44
苺とみるくは双子の姉妹。見た目がとてもそっくりな、かわいらしい女の子でした。けれど性格はまるで正反対で、苺はかっぱつなのに対してみるくはおとなしいのでした。
二人の誕生日の夜ことです。
二人のお父さんは二人のためのプレゼントを抱いて家路を急いでいました。
苺は遊ぶためのロボットのおもちゃを欲しがりました。まるで男の子のようです。
みるくは特に何がほしいとも言いませんでしたが、ぬいぐるみと迷って、本が大好きなので、本を汚さないためのブックカバーを買ってあげました。
お父さんはそれをばっちり持って家に帰ったのですが、いざ家に帰ってみると、お父さんの帰りが遅かったために二人は眠ってしまっていたのでした。
お母さんから今日くらいは早く帰ってくればよかったのにと怒られてしまいます。確にその通りなのでお父さんはぺこぺこ頭を下げるばかりでした。社会人は大変です。
仕方がないのでお父さんは二人が眠っている間に、サンタさんのように枕元にプレゼンとを置いてくることにしました。
しかし、ここで大問題です。眠ってしまうとどっちがどっちかわからないのです。
お父さんは、いやいやそんなはずはない。僕はパパなんだから。となんとか見分けようとしますが、結局わかりません。
諦めて、お母さんを呼びに行きました。
最初は呆れて怒っていたお母さんもやって来ましたが、結局お母さんもわかりません。照れ隠しに笑ってごまかしました。
お父さんとお母さんは結局諦めて、山勘でプレゼントを二人にあげたのでした。
翌日、恐々と両親が子供部屋を覗くと、楽しそうにブックカバーをパタパタさせて鳥に見立てて遊ぶ苺と、かっこいいロボットとぬいぐるみでおままごとをやっているみるくがいました。
二人はアッという顔をしましたが、子どもたちが楽しそうにしているのを見て、笑い出してしまいました。
部屋には、楽しそうな四人分の笑い声が溢れていました。
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[4] By 眠兎
03-14 16:43
『cover up』

 私は死んだ時の事を憶えている。それはよく聞くような光や闇とは違い、灰色のわけのわからない靄の様なもので、あっと気付いた時には全てが終わっている不可解な夢を見ているみたいだった。
 私はその時の夢を事細かに憶えている。しかしその夢は本題には関わらないし、何よりも憶えている夢の内容が私にはさっぱり意味がわからないのだから語っても無駄だろう。私は今の完璧な記憶力の代わりに、それ以前の全てを忘れてしまっていた。
 死んでしまった私が何なのか私にもよくわからない。どういったわけか死んだはずの私は今もこうして自我を有し、こうしてほんの少しのエネルギを消費して独り言をしている。今の私は『RUI219型』略してルイと呼ばれている。
 気が付いた時、私はロボットになっていた。


 RUIはいわゆる家事をこなすお手伝いロボットで私もここ、月神家のハウスキーパーとして毎日忙しく働いている。
 月神家には足の悪い祖父、学者の父、まだ五才の息子の三人が暮らしており見事に男系社会である。母親はかなり前に事故で亡くなっている様で女手のないこの家での私の仕事はたくさんある。
 朝は早起きの祖父の世話をし、8時にはやんちゃな息子を起こし大わらわ。父は寡黙な人で私の用意した朝食を食べるとひっそりと仕事場へ向かう。朝の忙しい時間が終わり息子を幼稚園へ送った後もまだまだやることがたくさんある。洗濯をして掃除をして、暇を持て余している祖父を相手に碁を打って、それがすむと買い物へ行って……。
 そんな忙しい毎日に私は不満はない。どころか確かな幸せに満たされていた。
 ロボットの私が幸せを感じるなんて変だなと考える時もある。だけど自我のある私にはそういった日々の充足を必要としていた。
 夕方の買い物帰りに歩く土手道で、夕焼けに彩られる世界に安堵を抱き、幼稚園へ息子を迎えに行った時に、笑顔で私を待っていてくれるその顔に喜びを感じ、夜、静かな時間に父にその日の細々とした報告をした時の満ち足りた気持ちは何にも代えがたい。
 時々思う事がある。
 人間だった時の私はどうだったのだろうか。幸せだったのだろうか。もし……。
 もしも私の自我が失われただのロボットになってしまったら?
 あるいは私がただの人間になってしまったら……。
 その薄ら寒い予想はロボットであるはずの私の背筋を凍らせ、完璧なはずの私の身体機能を狂わせる。
 動作不良を起こす私を治してくれるのは父だった。この人は権威あるロボット博士の様で工場に行かなくても私を修理してくれる。
 父は私を修理する時、ロボットである私を諭す様に穏やかに語りかけてくれる。「何も心配する事などないんだよ」と。
 主人の言葉に忠実であるはずの私は、それでもやっぱり不安を拭えずよく故障する。そんな時、私は息子と祖父に聞く。
「私はいつまでここにいられるのでしょうか」
 それは決まっておやつにイチゴミルクを供している時。祖父はそのイチゴミルクのイチゴだけを避けミルクをスプーンで啜りながら言う。
「おまえさんがいたいだけいればよかろう」
 息子はイチゴをぐちゃぐちゃと潰し言う。
「ぼくはルイさんにずっといてほしいよ。それともルイさんはぼくがいやになったの?」
 うつむいてぐちゃぐちゃとイチゴを潰しながら言う息子に私は慌てて首を振る。
「いいえ、そんなことありません。私はずっとあなたのそばにいたいと考えています」
「ならそれでいいじゃない」
 潰したイチゴミルクで口の周りを汚しながらニカッと笑う息子に、私は深く頷いた。
 私は今の環境にとても満足している。だからこそ不安はあったがそれでも私は幸せだった。



 私は書斎でハウスキーパーである『ロボット』から聞き書き留めている『報告書』を読んでいた。
 もう夜も更けた時間、息子も私の父も眠っている。
 『ロボット』は何か片付けをしているのだろう。静けさに満ちた空間に時々かちゃかちゃと音が忍び寄る。
 私は深く溜め息を吐いた。『報告書』を投げ出す様に机に置いた時、弾みでブックカバーが取れ表紙が露になる。
 そこには『我が妻の心理解析』と書かれた文字があった。
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[5] By YNG
03-30 00:00
     「ガンスモークホライズン」
薄暗い部屋の中、男が木製の椅子に座り、何か細長い物を選別している。
戦線にほど近い駐屯地にある兵舎の一部屋だ。
西日はすでに紅い光を兵舎に投げかけている。
男は粗末な木箱から一つ細長い物を取り出すと、目の前に持ってきて、よく吟味する。
銃弾。
拳銃の小さな物では無い。アサルトライフル用の長い物。
今取りだした物は所々錆びがういている。
男は一瞥すると最初に取りだした木箱の隣りのプラスチックケースに投げ入れる。
「アルケイディ」
男は部屋の隅に置いてあるベッドで寝転がりながら、本を読んでいる戦友に声をかけた。
「なんだよ。ルーザー」
「お前も銃器の整備ぐらいしろ。怠慢は死を招くぞ」
「俺はもう終わった」
一般に思われいるより、銃器の類はずっと精密にできている。
一度、戦場にでるとほぼ整備の必要がある。戦争が長引くと製造の精度も落ちる。
使用している時にどこかがおかしくなる事もあるから、なおさら銃器の整備は重要となる。
無論、錆びた弾を使えば暴発の危険もあった。
「アルケイディ」
ルーザーはまた取りだした銃弾を布で磨きながら言った。
「なんだよ」
「趣味の悪いブックカバーだな」
「ほっとけ」
アルケイディの読んでいる文庫本のブックカバーは布製で色とりどりのお花畑の刺繍がしてある。
「母親の贈り物だ」
「ジーザス。子離れできない親ってのはどこにでもいるもんだな」
ルーザーは大袈裟に天井を見上げると懐から豪奢な刺繍がされたハンカチをアルケイディに振って見せた。

数時間後。ブリーフィングの時間だ。
この駐屯地にまるまる中隊一つおさまっている。
会議室は人間であふれている。椅子も足りず、数人は後ろの壁にもたれ掛かり退屈な時間が経つのをじっと我慢していた。
ルーザーとアルケイディはそんな少人数派だ。中隊長が来るのをじっと待つ。
ふいに会議室の前面のドアが開き、中尉が二人入室した後に中隊長が来る。
「ふぅ、ようやく我らが恐れ知らずの中隊長のおでましだ」
「黙ってろ、アルケイディ」
良い知らせの時は、中尉二人がそっと目配せしたり、片目を瞑ったりして教えてくれる。
悪い知らせの時は中尉二人は暗く沈んだ顔を見せてくれる。
今回は悪い知らせのようだ。
「さて、諸君」
中隊長が口火をきる。部屋の奥までよく聞こえるようにこの規模の隊なら普通はマイクを使うが、この隊は中隊長の大声でそれを補っている。
「次の任務だ。休暇は終わりだ」
盛大に中隊員からヤジが飛ぶ。
「静かに。今回の任務は窮地に陥ったフレンド(友軍)を救出する事だ。話しは簡単だ。敵軍の攻勢に切り離された我が前線にフレンドが残っていた。我々は敵軍の前線を突破しフレンドと共に再び我が陣地に帰還する」
そこまで、一気に中隊長は喋ると隊員達に質問のチャンスを与えた。
「隊長!フレンドはどの程度の規模の隊でどのような隊なのでしょうか!」
古参の隊員から質問があがる。
「規模は小隊規模。どのような隊なのか?という質問の意図がわからないが、……我々が助けに行くのは子供だ」
「学兵という事でしょうか?」
「そうだ。政府は人的資源節約の為に例の魔法の言葉を若者に使った。つまり『我々の同胞を助けよ』だ」
「なるほど。次のルーキーが育つまでの時間稼ぎか」
アルケイディが呟く。
「不思議な事にこの言葉で奮い立つ若者達が実に多い。困った事だ。明日を担う若者がこんな汚泥にまみれ、血と硝煙にまみれている戦場に来ている。ここに我々がいるというのにだ。我々は子供を助けなければいけない。我が国の明日を担う子供達を無駄に命を落とさせるな!これは大人の責任の一つでもある。詳しい作戦内容はこれから説明する」
中隊長の話しは続く。
「アルケイディ、どう思う」
ルーザーは小声で聞いた。
「さぁね。ただ俺は政府のロボットになるつもりはないな。今度の戦争は長い。そろそろ英雄が必要な頃だ。死地を乗り越え学兵を救出するベテラン中隊。こりゃ、いいプロパガンダだ」
「どっかんと士気があがるわけか。やれやれ」
「ま、羽も生えそろってないヒヨコ共を助けるってのは悪い気がしないね」
「同感だ」

「たぁ〜、こりゃ銃弾の雨ってところだな!」
ルーザーは大声でどなる。
「あぁ?聞こえねぇよ!」
フレンドの救出作戦は読まれていた。敵軍の激しい銃弾の雨に斥候にでていたルーザーとアルケイディを含む数人は見舞われていた。わずかな岩場に身を隠しじっと待つ事しかできない。
「考えてみりゃ、典型的なおとりだぁな!」
「おい、頭を出すな!死ぬぞ」
アルケイディは声をかけたが、間に合わなかった。
恐慌状態に陥った一人の男が頭を打ち抜かれ、イチゴミルクのような脳漿をまき散らしながら吹っ飛ぶ。
「くそ!いい眺めじゃないな」
「同感だよ」
「しかし、俺達数人にこの兵量。過大評価も困ったもんだ」
「ちょいまち。連絡が入った。……あぁ、そうだ。三人やられた。至急、応援を送ってくれ。…あぁ、何?……わかった。時間を合わせる。5…4…3…2…1。OK。くそ!」
「なんだって?」
「応援は遅れないってさ。後方も大変みたいだ。なんとか砲列は敷き終わったから、五分後に援護するからつっこめだと」
「おいおい、敵の銃弾にやられるのならまだしも、味方の砲弾に吹っ飛ばされるなんてごめんだぞ」
「そりゃ、砲撃者に聞け。こっちの地形は送ったから大丈夫だろ」
敵の銃弾で起こった土煙で目の前が全く見えない。
ふいに砲撃音が数発聞こえ、一瞬銃弾の雨がやむ。
「オーライ。騎兵隊の登場だ。これから一分後に突っ込むぞ」
「騎兵隊の役目を俺達だっつーの」
アルケイディはアサルトライフルを岩の影で構える。
「…………よし、時間だ。行くぞ!」
ルーザーが岩陰から踊り出すと敵兵が砲弾で空高く吹っ飛ばされるのが確認できる。
「相変わらず、砲兵さんはど派手だ!」
アルケイディもルーザーに続き身を躍り出すと、まっすぐに走り出す。
後に残るのは轟音、轟音、轟音。
pc
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[7] By 北城 十
04-23 23:26
『渇する猫1』

 その日路上で出会ったのは、高校時代に憧れていた女性と瓜二つの少年だった。
 そこは夜の街で、その少年の自分を見る妖しい色香に目が覚めた。あれからもう十年は経っているし、あの人はこんな表情しはなかった。とうに青春の思い出だったし、同窓会で会ってもただ懐かしさを覚えるだけだったのに、心が揺れた。
 ビルの壁に寄り掛かり自分を見る目が笑う。英風(えいし)は程よく身綺麗で平凡で、彼のお眼鏡にかなったのだろう。いや、ただ英風が見つめ続けているから客になると思っただけかもしれない。
 少年が歩み寄る。襟ぐりの広い黒いTシャツにブラックジーンズ、足下のスニーカーは履き古してボロボロだった。全体を見ると身綺麗に見えるのに、彼の身につけた物はどれもあまり清潔そうには見えない。
「どう?」
 その声はもちろんあの人のものではなく、女性のものですらない。だが少年の声は甘く響き渡り、英風の感覚を麻痺させた。
 もともと「そういう理由」でココに来たのだ、惹かれるのなら抱けばよい。
F901iC
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[8] By 北城 十
04-23 23:49
『渇する猫2』

「いくら?」
「前金で二万」
 不躾に確認した後、目を合わせて笑顔を作った。そっと腕を差し出すと、少年の細い指が絡む。そのまま薄暗い路地を進み安いホテルに入る。欲望に従ったロマンも情緒もない商売。
 シャワーを浴びることもなくベッドへと向かう。
「名前は?」
 背広を脱ぎ万札を取り出しながら質問した。少年はスニーカーを脱ぎながらこちらを見て悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「何のために聞くの?」
「呼ぶために」
「ヤってる時に名前呼ぶのが好きなの?」
「癖かな」
「ふうん」
 裸足になった少年は英風に歩み寄り、差し出した万札を無視して胸に指を這わせた。鼓動を計られている気がして苦しくなったが、見上げてくる顔に突き放せなくなった。
「もしヤった後、帰る時にもう一回呼んでくれたら教えるよ」
「呼ばれるのが好き?」
 聞くと目を細めて少年は笑った。猫の表情に似ている。
「いいよ、呼びたいな」
 答えは聞かずにそう言うと、少年の瞳が熱を帯び潤み、笑みが深くなった気がした。
「冬の夜って書いてトウヤ」
「冬夜……」
F901iC
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[9] By 北城 十
04-24 00:13
『渇する猫3』

 名を呟きながらベッドに押し倒した。前金でと言ったくせに札に触れることもせず、勢いで手から飛び去った札は二枚とも乱れて床に落ちた。商売からロマンスに、錯覚しそうな空気で満ちた。
 脱いで、脱がせて。少年の指が英風のワイシャツのボタンにかかる。細く、それでいて骨張った指だった。
 熱に浮かされながら「君の一生を買うにはいくらいるだろう」と聞くと、少年はただ少し冷たく「高いよ」と言った。
 ことの最中の彼は名を聞いたあの時よりずっと硬く、まるでそのために造られたアンドロイドのようだった。巧みで、そして人間味がない。しかし、名を呼ぶその瞬間彼の指が小さく震えるのを感じた。



 ことが終わった後見る少年の体は痛々しい程のものだった。肋が浮いて見える程細い。身長もそういえばあまりないし、男らしさは希薄で幼さが目立っていた。
 不意に罪悪感と後悔が襲った。ゲイでもないのに男を、それもまだきっと年端も行かぬ少年を欲望の対象としてしまったことに。
 そんな感情を読んでしまったのだろう少年は、シャワーを浴び濡れた髪を拭きながら、感情の見えぬ笑みを浮かべた。
F901iC
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[10] By 北城 十
04-24 00:34
『渇する猫4』

 拒まれないのをいいことに、何となくホテルを出て少し二人で歩いた。
「眩しいな」
 夜の街の明かりはきらびやかに、色硝子の破片を撒き散らしたようにキラキラとしていた。あれが欲望の輝きなのだ。
「昼みたいに明るい。俺には太陽はいらないよ」
 そう言って笑うのに、彼が嫌がるのを分かっていながら痛々しいモノを見る目で見てしまった。
 結局拾わなかった二枚の万札を彼に差し出す。それが別れの合図だ。
「じゃ」
 受け取ると少年はそそくさと金を仕舞い離れようとする。
「さようなら冬夜」
 約束を違えぬようそう呼ぶと、冬夜は目を細めて微笑んだ。
「さよなら」
 小さく手を振ると夜の街の人混みに冬夜は吸い込まれるように消えた。ほんの数時間。まだまだ夜は長い。また他の客を取るのだろうかと、英風は深く嘆息した。



 夢から覚めた心地で過ごした数日の後、英風は昼の公園で冬夜を見つけた。
 ブランコに腰掛けて紙パックのイチゴミルクを飲みながら片手で文庫を読み耽るその姿は、子どもっぽいと思う微笑ましさよりも、この姿を似合わなく見せるあの日の少年の記憶からの痛々しさをより強く感じさせた。
F901iC
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[11] By 北城 十
04-24 00:49
『渇する猫5』

 関わるべきでないと分かりながら、足が自然と彼のもとに向かってしまった。
「本を読むのが好きなのかい?」
 驚いた表情をしたのは一瞬で、冬夜はすぐにあの日の日なたの猫のような笑顔を見せた。その表情に何故だか喉が詰まる。
「別に、これは特別」
 見ると手元の本も、ブックカバーもボロボロで、長い間繰り返し読まれていたことが伺えた。大切なモノを持っていたことに、少ながらず英風は安心した。
「学校は?」
「サボり」
「家出?」
「かな」
 何故だか不自然な程自然に会話していた。冬夜は自分に心を許してくれているのだろうかと思ったら、愛しさのような思いが湧いて、体に溢れた。
「君の一生を買うにはどれくらいいるかな……」
 あの夜と違い頭はスッキリとしているはずなのに、その衝動を止めることができなかった。また少年が冷たくかわすのを想像したが、冬夜は今度は幸せに酔うような甘い表情で英風を見上げた。
F901iC
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[12] By 北城 十
04-24 01:05
『渇する猫6』

「高いよ」
「それでも」
 知りたい、欲しいと後に続く言葉が選べない。どちらなのか、どちらも同じなのか。ただ認めきれないのか。
「全部の愛をくれたら、俺も全部あげる」
 見上げてきた目が熱く潤むのを見て、ああと気付いた。金だけを欲しがる男娼ならあんなことはしない。冬夜の求めるモノを知り、じんわりと穏やかな思いがまた甘やかに英風を麻痺させた。
 いつかこの思いが彼を傷つけるかもしれないと諌める声も、英風を制御しきれはしなかった。
 潤いを失った大人にしか効かない毒なのかもしれない。傷の舐めあいと呼ぶかもしれない。
「バカだな、安いよ。欲しいと言ったらすぐにあげられたのに」
 泣き笑いで冗談のように言って抱きしめた。
 きっと気付いた。彼はコレが嘘だと。英風はこの対価がどれほど高いか知っていたから。
F901iC
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