01/07 23:49

「父の本心」
ガラス玉

私に父の本心は、解らない。


それは『当たり前』。

でも、
それでも、理解しようとする事はできます。
心を推し量ろうと思えば、なんとか推し量れるし、慮れる。

私が、父に対して放棄したのは、そういう事。
(父も、放棄していたけども。)
心と心が布地なら、ソレはボタンみたいなモノで。
私も、父も、ボタンを掛け間違えたままなのは、きっと、そのせいね。



幼い頃、私達家族のいる別居先から、あの家に帰るのは、父ひとりだけだった。
その父が帰る前、父のトラックの助手席で、珍しく私を膝に乗せた。
私は、私をじっと見下ろす、父を見上げた。

その時私は、じっと見上げた先である父の瞳を見て、お気に入りのうさぎを、父に渡したのを覚えてる。

右耳に、花飾りをつけた、白い、うさぎのぬいぐるみ。


『おっとぅ、○○(私の愛称)は、もう、おっとぅのそばにいられないけど、○○のうさたん、かわりにかしたげる。○○のかわりに、うさたんがそばにいるから、おっとぅ、さみしくないよ。』

みたいな事を言って、

ずっと、そばにいてね、
って、
うさぎのあたまをなでた。




あの頃、私は確かに、父が大好きだった。

あの頃、私は確かに、心からそう言った。


でも、時が経つほど、私の中の、父への【大好き】は、消えてしまった。


…ううん、口ではそう言ってても、ホントはそうじゃなかった。

大嫌いになんて、なりきれてなかった。




父と母が離婚して、しばらく経った日。
父に言った。

「あの日、渡したうさぎ。アレ、まだ持ってたら、返してほしいんだけど。」
(コレは、私の賭けだった。
だって、父の車にも、トラックにも、いつだってうさぎはいなかったから。
いつもそばにいてね、
って。
うさぎに願ったのに。

小さな私の中の、【大好き】なんて、どうでもよかったんだ。
お兄の【大好き】さえ、在れば。
私の誕生日すら、覚えていなかった。
私はちゃんと、母に聞いて、知っていたのに。
…そう思ったから。)

あの日、持っていてほしかった、大好きのかけら。
要らないなら、返してもらおう、と。



父が、
「解った。」
と言って、トラックから、うさぎを持ってきた。
まさか持っているとは思わなかったから、
言葉が、でなかった。


花飾りはボロボロで。

白くてふわふわした生地は、ボソボソした灰白色。

圧し潰れた、うしろあたまと、はなさき。
(きっと、洗うときは、雑に洗ったんだね。
そして、ボンネットの特等席に、きっと、いつもいたんだ。
照れ臭くて、そばに置いてる事を知られたくなかった、だなんて。
…なんて、無器用なんだろう。
…だけど、おとうらしいね。)



受けとった時の父の言葉は、
『ありがとう』。
でした。
(何に対して、なんて聞けなかった。)



父が帰ってから、
うさぎを見ながら、私が泣いたのを、父は知らない。
(これで、おっとぅは、本当に、独りぼっちだ。)


ホントは、うさぎを、持ってていい、と渡したかったのを、父は知らない。


幼い私が、うさぎのぬいぐるみを渡したのは、迷信だと知っていたけれど、【うさぎは寂しいと死んでしまう。】と聞いたからだと、父は知らない。
(あの日、父の瞳は確かに、寂しさに揺れていた。それが、うさぎのぬいぐるみみたいに、見えたんだ。)



…あのね、おっとぅ。
おっとぅが、今ひとりぼっちなのは、自業自得だと、私は思うよ。
(あの時が、私が、おっとぅを赦した瞬間なんだと、おっとぅが知らない、今でも。)




…おっとぅ、ひとりぼっちは、寂しいですか?


…私だったら、ひとりぼっちは、寂しいです。



あの時、うさぎみたいな目をしてたでしょ?
持っていたいって言ってくれたら、ホントは、また、渡したかったの。

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