真空にかすり傷
旦那がホクホクした顔で帰ってきたので「どうかしたの？」と聞くと「穴」と言う。ついに買っちゃったんだ、と思いつつ旦那の手からわたしの目の前に置かれた穴を見ている。「いいよねー」「うん」「やっぱ、この真空な感じがたまんないよねー」「うん」「俺ちょっと入ってくるよ」そう言って旦那は帰ってきたばかりの格好で穴の中に入ろうとするので、わたしは、だめだよ、そんなくたびれたスーツなんて着てったらみっともないよ、しかも夕ご飯もまだ食べてないじゃん、わたしが、なんか、手抜いてるみたいに思われるじゃん、だめだよ、行っちゃやだよ。「バイバーイ」と旦那が穴に足をかけようとしている。だめだよ、とわたしがもう一度つぶやく。ずてん、と旦那が転んでしまいわたしの目の前を旦那のスリッパが飛ぶ。「あーあ」旦那の尻に敷かれて穴がつぶれてしまったのを見て二人でつぶやく「あーあ」「だめだよ、もったいないなあ、買ったばかりなんでしょう」「あーあ」「あ、怪我してるじゃん、ちょっと見せて」わたしは旦那の手のひらに出来たかすり傷に思い切りマキロンを吹きかける。「（言葉にならない旦那のうめき声）」が聞こえるけど無視する。転んで起き上がろうとしない旦那が仰向けに寝ているので、わたしは少したるみ始めた彼のお腹を見下ろす。涙目で旦那がわたしを見上げる。ピー、と音が鳴りご飯が炊けたとジャーが言うので「バイバーイ」と、わたしは旦那に。ずてん、と転んでわたしのお尻が旦那に落ちて、
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