蝌蚪




駅を降りると一面が(るるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる)だったので爪先立ちで改札を出ようとしていたさっきのことを思い出せば、切符の代わりに切手を差し出して宛先の無い手紙を「誤配」していただこうと勘繰って読めない名前の駅に降りたら(るるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる)って耳をつんざくように、つんざくように冬の終わりを象徴しようとしているのは虫偏に科、と虫偏に斗、でしたでしたでございましたら、読めない駅名の時間は逆行して(るるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる)が透明な半透明な非透明な未透明な不透明な無透明な薄い膜越しの黒い瞳が、黒い赤い太陽のような瞳が、黒い赤い青いオレンジのような瞳が、こっちを見下ろしておりますおります降ります!気づいたら時間は逆行していた電車の中で、窓から見える読めない駅名がだんだんだんだん遠ざかり、(るるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる)の耳鳴りも消えうせてたるんだ皮膚にもつやが出たり潤いが出たり粘液が出たりいぼが出たり角が出たりして、思いのほか緑色だったら肌も元通り黒くなって、電車は順調に逆行、乗客が次々と同じ顔になっていくと真っ黒になっていくと尻尾が生えるのと反比例に肩がへこみ腕がちぢみ大たい骨は粉みじんに脚が体内に入っていきますからいきますから着ますから!そのねばねばぬるぬるでろでろした網膜みたいな半ぷん腐った処女膜みたいな場末のスーパーの垂れ膜みたいなアレをアイツが着てソレをソイツが着てコレをコイツが着て丸くなってみたらドイツがドレやら分からずに床一面が(るるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる)「次の停車駅は●」




 草野心平「春殖」は三十個の「る」を立て一列に並べた詩である。冬眠を明けた蛙の生命力を鳴き声に託した作品といわれる。また、「る」にひそむ丸に着目し、この丸が三十個並んだ様から、透明な膜に包まれた蛙の卵を表す視覚詩としても解釈できる。聴覚と視覚の両方を端的に示した稀有な作品である。
 「春殖」と並んで詩集『天』に収録されている「冬眠」は「●」ひとつで一作であり、タイトルも含めて全部で三文字しか使用していないことで有名。筆者は小学生のころに本作の音読を宿題に課されたことがあったが読めなかった。難解な宿題を出された積年の恨みを果たすべく、先日八つ当たりの形で「●」の音読を小学生に課したところ、「生命の穴」という読みを行った男子がいる。本作の最後に草野「冬眠」と大変に通った表記が見られるがそれは気のせいですので好きに読んでください。






[編集]
[*前][次#]
返信する

[Impressionnabilite]


[掲示板ナビ]
☆無料で作成☆
[HP|ブログ|掲示板]
[簡単着せ替えHP]