まさかの





あなたはトマトを発酵させている。
冬の入り口のような日、
窓の外にはいちめんのなのはなが咲いていた土地が、
今では裸体を曝け出している。
剥き出しの土くれ。
這いまわる蚯蚓を見下ろしながら、
幼い時に引きちぎった彼らの節々の断面を思い出し、
(いや、そもそも彼らに節があっただろうか、
 彼らをともに引きちぎった悪友もいまではこの地を去り、
 急行を告げることない駅舎にひとり引きこもっている。
 悪友の制服は乗客に見られることもなく、
 いつまでも新品のまま。)
その断面からは透明な体液が流れている。
あなたはトマトを発酵させている。
それは土くれから勃起した男根のような貧弱さ、
(地下に根を張る皮肉さよ。)
乾いた冬の入り口の日差しは、
ゆっくりと蚯蚓を焼き殺している。
(まさかの脱皮であった。
 引きちぎろうとした蚯蚓の蠕動。
 震えが伝わったかのように悪友とともに怯えた。
 こうして土地に還っていくのだと思った。)
いちめんのなのはなに火をつけて、
悪友はこの土地を去って行った。
すべての着古した思い出を灰にして。
そうしてあなたはただひとり、
大地に勃起した男根のようにひとり立って、
窓の外で、
トマトを発酵させている。






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