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[1] 浩子
By 貴志
04-05 12:18
浩子が入社してきたのは3年前だった。
歓迎会の席でお酌してくれながらニコニコと屈託のない笑顔で差し障りない話しをした。
20数人の社内で今まで女性社員は経理兼事務のパートの主婦を含む二人だけだった。
浩子が入り花が咲いた様に社内が明るくなった気さえしたのだった。
関係業者を交えての暑気払いの飲み会の時だったと思う。
健康センターの座敷を借りての飲み会だった。
普段外に出ている事が多く浩子と話す機会も特になかった。
「お疲れ様です。」
会も半ばになり席もバラバラになって気の合う者同士で飲んでいる時に浩子がビール瓶を片手にお酌してくれた。
「だれ?」
「今度新しくうちに入った事務員さんだよ。」
「え〜可愛いね。」
「可愛いなんて‥そんな年じゃないですよ。○○浩子と言います。よろしくお願いします。」
一緒にいた業者の奴にお酌した。
「○○さん,気を付けた方が良いよ。○○さん(俺)は手が早いから。」
「そうなんですか?気を付けないと‥でも○○さんなら良いかな‥なんて。」
「え?」
「だって○○さんってなんか‥良いと思います。」
「何言ってるの?○○さん飲み過ぎなんじゃない?」
「私,一滴も飲んでないですよ。飲めないんです。」
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[21]
By 貴志
04-13 10:08
「○○さんが奥さまの事,忘れられないの当たり前の事だと思ってますから。もしそんなに簡単に忘れてしまう様な人だったら好きにならないと思います。」
「うん‥」
「少しでも私と一緒にいる時,○○さんの事を‥すみません‥生意気言って。」
良い子なんだな‥本当に俺なんかで良いのだろうか‥
真っ直ぐに見つめている浩子の目にたまらず逸らしてしまった。
「○○さん‥」
「ありがとう。」
浩子の頭を撫でていた。
「もし,嫌じゃなかったら奥さまの事教えてください。」
「何を?」
「何でも。楽しかった思い出でも‥何でも良いです。」
「聞いて‥?」
「知りたいんです。嫌だったら途中で止めても構いませんから。」
「そう‥
もう10年以上前の事だからね‥断片的だよ。
いつも思い出す風景って言うか場面がいくつかあるんだ‥
若かった頃‥結婚する前だった。春先だったと思う。伊豆の海に二人で出掛けて‥漁港だったよ。海が綺麗で遠くの方まづ透けて見えて‥まぶしい位の日差しの中で写真を撮った。風に髪が流れて今でもその写真は飾ってあるよ。一番楽しかった頃の思い出なんだね。」
「はい。」
先を促す様に浩子が頷いた。
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[22]
By 貴志
04-13 12:28
「子供が生まれて一才位の頃だった。夜中,目が覚めて隣りにいなかったんだ‥リビングから微かに音が聞こえて行ってみるとコタツに入って膝に子供を抱えてディズニーのビデオを見せてたよ。『起こしちゃった?ユウちゃんディズニーが好きなんだよ。』優しい‥母親の愛情たっぷりの顔をしていた。」
「○○さん‥すみません‥」
「ごめんな‥ダメなんだよな‥思い出しても話してても泣けてしまって。」
「すみません。つらいのに私がお願いしたから。」
「『不思議だね。』って。『ユウちゃんが大きくなっていつか赤ちゃんできたらおじいちゃんとおばあちゃんになっちゃうね。』って‥」
「○○さん‥もう‥すみません‥」
「あまり話した事なかったよ。浩子が初めてだと思う。」
「はい。すみません‥」
浩子も泣いてくれていた‥
「こんな男だよ。いつまでも思い出に浸って振り返ってばかりいて‥浩子は絶対幸せになれないよ。俺なんかと一緒にいても‥」
「そんな事言わないでください。私は好きな人といれるのが幸せだと思ってます。」
「でも‥」
「良いんです。○○さんが嫌と言うなら仕方ないと思いますが‥」
「浩子‥」
「がんばってくださいね。私,○○さんのファンクラブの会員ですから。」
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[23]
By 貴志
04-13 12:46
「ファンクラブか‥ありがとう。」
「たぶん○○さんや○○さんには嫌われちゃいます。」
「そう。」
「○○さん‥もう一つ聞いて良いですか?」
「良いよ。」
「奥さまを‥私が初めてですか?こんな‥」
「正確にはNOかな‥健康な男だから風俗に行った事があるよ。」
「普通の人とは‥」
「YESだよ。なんで?」
「聞いた事があるんです。以前いた人と○○さんがその‥」
「根も葉もない噂だよ。気にしないで欲しい。」
「でもそう言う人はいたんですよね?辞めたと聞きましたが。」
「誰に?」
「○○さんに。」
「そう。なんでそんな話しばかりするのが面白いのかな‥」
「すみません。気分悪くなりましたよね‥七○さんって言う方で○○さんの事を想っていたと聞きました。」
「うん。でも俺は応える気になれなかった。まだ失って間もない頃だったから。一度だけ○○さんに何かの時に送ってあげた事があって。かなり強引にファミレスに連れてかれたよ。しばらくしたら今言った七○さんが来て三人でお茶を飲んだ。」
「はい。」
「そのうち○○さんが一人で帰ってしまって七○さんと二人きりになって言われた。」
「そうだったんですか。」
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[24]
By 貴志
04-13 13:03
「とても応えたりできなかった。ちゃんと話してて彼女にもわかってもらったよ。」
「そんな事があったんですね。」
「うん。それからしばらくして彼女が辞めた。俺は何も言えなかったし,止める事もできなかったよ。」
「わかります。」
「それだけ。」
「はい。」
「浩子は?」
「何ですか?」
「好きな人とかいなかったの?」
「私は‥私‥バツイチなんです。」
「そう。」
「男の人はもうこりごりだと思ってました。」
「旦那に問題があったの?」
「いえ。合わなかったんですね。だから別れてからはそんな気になれませんでした。」
「そう。」
「ただ○○さんは違ってました。」
「そんな事ないよ。」
「いえ。私の中でです。どこか‥いつの間にか○○さんの事しか見えなくなっていました。」
「私も‥もう人を好きになる事なんてないと思ってました。」
「そう‥」
「気付いたら‥○○さんだけでした。」
「なんか照れちゃうから止めようか。」
「明日,お仕事大丈夫ですか?」
「そうだね。寝ようか。」
「はい。○○さん‥」
「ん?」
「サせてください。」
浩子が口に含んだ。
「眠くなったら寝てくださいね。」
微睡みの中‥放出した記憶はあった様な無かった様な‥寝てしまっていた。
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[25]
By 貴志
04-13 13:25
時間的にも一,二時間だったのだろう。
浩子に揺り起こされホテルを出た。
ファミレスで朝食を食べ,駅までの道を歩いていると浩子が紙に書いたメモを渡した。
「携帯とアドレスです。○○さんのプライベート用の‥教えてください。」
意識して避けていたせいもあった。
会社から支給されている携帯で仕事のメール以外送る事も受ける事もなかった。
「メール?」
「はい。嫌ですか?」
「嫌って事はないけど。あまりヤラないから。」
「じゃ一方通行でも良いですから。教えてください。」
「構わないけど今はわからない。車に置きっ放しだよ。」
「じゃ空メールで良いので一度送ってください。」
「わかった。」
駅で別れ別々の方向の電車に乗った。
通勤時間帯の前のまだ静かな時間だった。
子供に何て言おうか‥思春期に入り,難しくなってきた。
母親がまだしっかりしててくれて女親代わりでいてくれるのが救いだった。
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[26]
By 貴志
04-13 13:54
○○さん‥
○○さん‥
と以前と変わらず呼び合って周囲の者にも気付かれる事なく接してくれる浩子の姿をありがたいと思った。
ただ,あとの二人の女性社員には話したのだろう。
意味あり気な言葉使いと視線がそれを語っていた。
会社の携帯に一度だけ‥『お疲れさまです。約束の確認をお願いします。‥○○浩子』
とメールが送られてきただけだった。
待ってくれている。
待たされる彼女の気持ちは痛いほどわかった。
ただ一度,気を緩めるとそのまま流されてしまう自分の弱さを知っていたから教える気になれなかった。
なぜ自分を追い込もうとするのかわからない‥ただ俺はもう人を愛してはいけないのだと自分に言い聞かせていた様に思う。
ひと月位経った頃だった。
社内には俺一人しか残っていず明後日の提出期限の見積もりをやっていた。
10時を回った頃だった。
いつから置かれていたのだろう‥机の上に犬の形をした重石が置いてあったのに気付いた。
不思議に思い手にとると底の部分に小さな字で付箋に『一番上の引き出しの奥の黄色い手紙を見ろ ワン』
と書かれていた。
綺麗な字だった。
言われるまま引き出しの奥に几帳面に折り畳まれた小さな手紙があった。
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[27]
By 貴志
04-13 14:14
『あの日の事はもう思い出として忘れるべきなのでしょうか‥
○○さんの本当の気持ちが知りたいのです。
迷惑ならもう二度と‥諦めます。
返事を返す気にもならないならNOだけでも構いません。
待っているのが辛いです。
○○浩子』
こんなにも‥彼女を‥
自分でも言い訳できない様な気持ちで‥
ただ人の気持ちを弄んでいた事に気付かされた。
許して欲しい‥
浩子の携帯に電話をした。
留守電になり切ると折り返してきた。
『俺‥』
『○○さん?』
『うん。』
『どうしたんですか?こんな時間に。会社ですか?』
『うん。あの手紙見たよ。』
『すみません。』
『謝るのは俺の方だよ。ごめんね。』
『良かった。』
『何が?』
『気付いてて何も言ってくれないのかと思ってました。』
『ごめん‥』
『一週間位前から置いといたんですよ。』
『そうなの?』
『はい。』
『明後日‥会えないかな。仕事終わってから。』
『大丈夫ですよ。無理しないでください。』
『会いたいんだ。明日は無理だけど。会いたい。』
『ありがとうございます‥』
『浩子‥』
『すみません‥もう止めたいって話しかも知れないですよね。』
『違うよ。浩子に会いたい‥』
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[28]
By 貴志
04-13 14:20
もう迷わない‥
許してくれるだろう。
喜んでくれる気さえした。
いつか一緒に連れて行きたいと思った。
『元気でやってるよ』と。
『見守ってくれ』と。
『彼女と一緒になりたい』と。
逢わせてあげたい。
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※素人モロ出し板
[29]
By 名無し
04-13 21:46
続きをお願いします!!
P01A
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[30]
By アキ
04-14 01:31
感動
自分はこういうタイプの話が大好きです
頑張ってください
830N
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