投稿日03/24 17:33

「いつのまに(其の壱)」
ジェルガヒミカ

WBC日本連覇しましたねぇ。本当お疲れ様でした。そしておめでとうございます。見てて一進一退の試合展開はハラハラのしっぱなしで仕事なんかそっちのけで見てました。本当感動しました。さて、本題ですが、ちょっと今回は何回かに分けて読みやすくしようと思います。宜しかったらお付き合い下さい。

 このコラムを書いている前々日の話。以前おじが経営していた会社からお菓子工場に派遣で行っていた日本人の女の子から深夜2時頃にメールがあった。
彼女とは以前私がおじの会社を手伝っている頃に知り合った。見た目その時彼女は工場で働いていたから全然化粧っ気もなく、背も高い方ではなくとても幼く見えて、まだまだ学生のような可愛いらしい娘でした。私とは年も10近く離れていて、共通の話題などあまり無かったけれど当時は息が合うというか、気を使わない気楽な存在でよく二人で出掛けたりもしました。
 メールで話をしていると二人ともまだベッドに入るような感じではなかったので、直接電話で話す事にした。
最初はメールの続きでたわいもない事で笑っていたが次第に話は互いの最近の事に及び電話口で彼女は言葉を選びながら確かめるようにしてゆっくりと過去から今の事を話しはじめた。
彼女は5年程前高3の秋に高校を中退し実家から逃げるように地元を離れて社会へ飛び出した。列車を降りて駅前の近くに見えたコンビニで無料情報誌を見て寮のある派遣会社に登録した。長いトコでは2年。短いトコで1週間と様々な地域で職種は関係なくいろんな工場でとにかくがむしゃらに働いてきたという。社会に出て男性と付き合った事があるのは二年間勤める事が出来た工場に居た時だけ。その後は自身が仕事にも住家にも根付く事が出来なかったから、状況を思えばそんなに縁がある訳がないし日々の生活で精一杯だからと今も考えないようにする事にしていると寂しそうな声で教えてくれた。

 年末に工場での派遣を切られてから「今、風俗で働いてるんだ」と。なけなしの貯金をはたいて自分に喝を入れる意味も兼ねて、お店の近くに初めて自分で契約してマンションを借りた。初めて自分だけの住家が出来た。「お店でね、毎日毎日いろ〜んな男の身体を受け入れているの」と私に恥ずかしそうに笑っていた。彼女は自ら飛び込んだ世界のはずなんだけど、本当は嫌で辞めたくて仕方なかったらしい。でもその時の彼女が誰にも頼らないで生活していく為にはこれしか選択肢が浮かばなかったみたいだった。仕事を始めた当初、「いっつもマンションに帰ってはメソメソ泣いてたよ。」 そんな時に決まって彼女の弱い心が囁きかける。
「頑張ったじゃん。もういいよ。家に帰ろうよ。」
「泣きついたら許してもらえるかもよ?」
「こんな風俗で頑張ってみたって何にもなんないよ。」
「意地にならなくたっていいじゃない。」
ほとんど自身の本心だった。でも素直に従う事はできなかった。
何度となく心は折れそうだった。でも毎日嫌でも太陽が泣き言を言う彼女の背中を押しにやって来る。ヒビの入った心のまま何も支えもないまま、気持ちも整理がつかないまま、彼女はまた足を引きずるようにしてお店に向かうしかなかった。明日も生きる為に。  
彼女は実家を出て以来、学生時の友達も親とも連絡は一度もしてはいないし、しようと考えた事なんか今まで一度も無かったらしい。
 風俗を始めた時期は家を出て以来、今までの自身を振り返ってばかりいた。そしてどんどん惨めになっていく自分が可哀相でどうする事も出来なくて身体だけじゃなく心も痩せてしまっている気がした。お金はそこそこあったけどなんだか満たされなかった。でも結局はそんな自分に酔っていた部分もあるかなと、振り返れば今はそう思えるようになった。
「なんで、そう思えるようになったの?」
私は彼女がなんで変われたのか聞いてみた。
 彼女は私に変われたきっかけとなったヒトコマに出会った事を教えてくれた。
続く

編集

このコラムのTOPへ戻る
▲コミュに民のトップへ


小瓶に手紙を入れて海に流すようなコミュニティ



BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」