投稿日07/12 21:56

「僕の人生のやめかた」
ひよこ

死にたいと思ってから、
僕は死にながら生き続けたのだ。

なにもかもが嫌だった。
器量も悪い、勉強も仕事もできない、人とはうまく付き合えない。
だから僕はいつ死んでしまってもいいと思っていた。

でも死ぬのはやめたのだった。
自分で自分の人生を終わらせるのはやめたのだった。

「私、デクノボウになりたい。」
僕には疎ましいような女がそう言った。
器量がよくて明るい感じの女だった。
大して親しくもなく、顔見知り程度だった。というか無縁な感じなんだけど。

僕はデクノボウにもなれない。

「でもあなた、私よりデクノボウになれる素質あるじゃない。」

僕は今、死にたい気持ちでいるから、
『よく見聞きし分かり そして忘れず』
なんて寡黙にせっせとがんばることなんてできないんだ。

『北に喧嘩や訴訟があればつまらないからやめろといい』
なんてそんな勇気もないのだ。

何もする気がしない、自分を殺す元気もない。
すべてをやめにしてこの世から無くなってほしい。

「でもあなた、不自由なく家にいて、ご飯は食べて、ずっと部屋にこもっているのでしょ。
それで死にたいと言うのは早いんじゃない。」

生活がどうこうじゃないんだ、とにかく僕はもう何もやる気がしなくて、
人の迷惑になるくらいなら余計に早く死んでしまいたい。

「じゃあ、少しでも死に近づくために家を出てみたらどう」

どう、ってそんなアクション起こす気力がないからこうして家にいて、そんな事を考えているんだよ。

「そう考えたら、家もお金もなくて死にたいって思っている人のほうがきついんじゃない?
生きていけないから死ぬしかないって切迫した状況でしょ」

お前に何がわかる、裕福な奴だって何かがうまくいったりする奴だって死ぬ奴は死ぬじゃないか。

「死にたいと考えている時点で普通の心理状態ではないよね。鬱状態になってるとか、もうイカれちゃってるとか。」

死にたいと思っている人間が、今自分は鬱状態だからなんだとかで自殺したくなってるんだ、なんていちいち分析しないよな。

「鬱の人に『がんばれ』て言うのはNGなんでしょ。
がんばってるのに、もっとがんばれって言うのか?って。」

僕にそんな事聞かないでくれよ!

「がんばらないで死ぬにはどうしたらいいと思う?」

なんで君が聞くんだよ、僕が聞きたいくらいなんだけど。

「私、死んだ時に誰にも悲しまれない、誰も思い出しもしないような人間になりたいの。
それってまさにデクノボウなんだけど。」

そんな風に思うなんて珍しいね、死にたいと思っている人は、「僕が死んだら
誰か悲しんでくれるだろうか」とか考えたりするもんだ。

しかしデクノボウになるのは、ちょっとした有名人になるより難しい気がするぞ。

「ところで、「自分は死にたい、いつ死んでもいい」って思っている人が、
偶然強盗にあったとして、ナイフでグサッってされる時、
「これで自分は死ねるんだ!」なんて思って、無言で手を広げて待っている事なんてありえると思う?
私絶対「ギャーーーーーーーーーッ!」ってなっちゃうと思う。」

そんな偶然滅多にないだろ。でも確かに僕も怖くなるだろうな。

「じゃあ、借金まみれでもう自殺しようと思っていたら、借金取りが殺しに来たら?」

それはさ、本心から死にたい、じゃなくてどうしようもなくて死ぬしかないと思ってる状況でしょ。

「でもさ、私、どっちにしたって人は殺される瞬間は「死にたくない!」って思うと思う。
ちなみに、自殺する人も、首を吊った瞬間、苦しい!!やっぱり死にたくない!!!でももう足場がない!!!死んじゃうんだ!あああぁぁ〜!!!って死んじゃうみたいよ。」

誰の声だよ。

「声は聞いてないけど、苦しんで抵抗した跡が残っていることがあるって。」

なるほどね。

「死にたいと思っていた人も死ぬ時にはその痛みから逃げたいと思うもんよ。死は望んでいても苦しみから逃れるための苦痛は望んでないでしょ。」

僕なんて死にたいのに死ぬ勇気がなくて「消えてしまいたい」なんて考えているくらいだもんな。
ちょっと指切っただけでも「痛ぇ!」て叫ぶんだろうね。

「あなたみたいに、人に「死にたい、死にたい」って言っている人は、なかなか死なないと思う。
だってそれって「だから助けて欲しい」っていうSOSでしょ。
死ぬ人は誰にも言わずに突然死ぬもんよ、それで「なんであの人が??」なんて言われて。
そういう人にそう言うと、死ななきゃいけないみたいに思って、もしくは悔しくなっちゃって死んじゃったりするから本当は言えないんだけど。」

僕が本当に近々自殺したらどうするつもりなんだ。

「そして「順風満帆だったあの人がなぜ??」じゃなくて、「周囲に死にたいと漏らしていた、仕事を辞め家に引きこもり、鬱状態にあったと思われる。」
なんて分析されたりする。」

なんかそういうありきたりな結論にされるのはあまり気持ちよくはないな。
まぁありきたりなんだから仕方がないか、僕がどんなに複雑な悩みで苦悶していたとしても、総括するとそういうことだ。

「私はデクノボウになりたかったから、死んでも誰もたいして気にしないし、すぐに忘れられる。」

そんなの無理だろう。。。

「そう、無理なんだけど。私、ちょっと周りの人とうまくやりすぎたの、私よりあなたのほうがよっぽどデクノボウになれそうよ。」

僕が君と違って暗くて地味で華がないとこらへんの事を言いたいのだろうか。

「あ、提案なんだけど。あなたは生きて、死んだ自分の振り返りをしてみたら。
だって死んでしまったら、振り返りなんてできないでしょ?「1年前の僕は、これこれこんな感じで死んでいた」なんて。
「そして今もこれこれこんな感じで死んでいる」って。
そんなことするなら死んだほうがましだ!って思うのが普通だろうけど。』

当たり前だよ、君頭おかしいよ。

「どうも。それを繰り返しても「やっぱり死んでいたらよかった」って思うもんなの」

僕を実験台にしたいのかね…
そんな事僕にはわからない。でも突然人生がハッピーになるなんて今の僕には想像できないよな。
 
「その位追い詰められた感じの作家とかいたかしら…。」

何ぶつぶつ言ってるんだ、

「あ、あのさ、普通の心理状態の時ってたいしておもしろい事書けないじゃない、
すごい文章書く人って少なからずどっかイカれてると思うのよ。あんな文章書くのはノイローゼじゃなきゃ無理!」

誰の事を言ってるだろ。

「だからさ、普通の人にはわからないドロドロがあるなら知りたい。
私はパンピーだからそんなのないし。」

君って充分変わってると思うけどね、今にも死にそうって奴に「死んじまえ」とも「がんばれ」とも言わないんだ。
僕だってそういう奴になんて言っていいかわからない。「僕も死にたいんだ」か?

「それじゃあ死んじゃうよね…っていうすごいものがやっぱりあるもんなの?」

いろんな理由はあるけどそんな壮大なストーリーはないさ、つまらないどうでもいい人生なんだからさ。
で、自ら死ぬにはそんなに秀でた理由が必要なもんか。というか僕なんてどこも秀でてないから死ぬんだよな。


「本になったら教えてくれる。」

とんでもない期待をかけないでくれよ、こんな僕に。

「これって「がんばれ」の部類に入るのかしら。でも大丈夫、私待ってたりしないから。
第一私たちがこうやってまた話すかもわからないでしょ?逐一「調子どう?進んでる?」なんて聞いたりしないし。」

たしかにそうだね、まあ適当に考えとくよ。

「好き勝手言わせてくれてありがとう。」
「あなたが自殺しそうになったら、私、「一番苦痛な方法」であなたを殺しに行こうかな。」

そりゃ、後悔、後にも先にも立たずだな。

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