投稿日05/31 10:22
「100万回セックスした女」
ひよこ
ある時女は、売れてないミュージシャンとセックスした。
音楽に興味があった。
彼は狭いアパートに住んでいたけど、みんなが振り返るくらいいい男だった。
音楽について語るのを聞いているのが楽しかった。
でも彼のことなんて愛してなかった。
ある時女は、高校生とセックスした。
初々しさに興味があった。彼は無邪気でいつも馬鹿みたいな事を言ってた。
それで女も馬鹿みたいに笑ったりしてた。
でも彼のことなんて愛してなかった。
ある時女は、アパレル店員とセックスした。
ファッションが趣味であった。
一緒に洋服を見に行って、おしゃれをするのが楽しかった。
でも彼のことなんて愛してなかった。
ある時女はサーファーの男の子とセックスした。
海に行きたかった。
情熱的だった。
でも彼のことなんて愛してなかった。
ある時女はボクサーの男とセックスした。
自分を守ってくれる安心感があった。
怖いものなしの優越感を手に入れた。
でも彼のことなんて愛してなかった。
ある時女はとある会社の社長とセックスした。
金持ちのデートをした。
旅行に行った。
欲しいものは買ってもらえた。
でも彼のことなんて愛してなかった。
ある時女は学者の男とセックスした。
語るのは哲学的な話ばかり。飽きなかった。
女は理論的な男は好きだった。
でも彼のことなんて愛してなかった。
ある時女は映画俳優とセックスした。
夜中にコソコソ待ち合わせした。
スキャンダルになるのもそう悪くなかった。
噂の的になるのは嫌いじゃないのだ。
でも彼のことなんて愛してなかった。
ある時女は無職の男とセックスした。
何もなくたっていいんじゃない、と思ったのだ。
セックスのテクニックは持っていた。
でも彼のことなんて愛してなかった。
そうして女は100万回はセックスしたのだ。
女は老いることがなかった。
あらゆる人間を知った。
女は愛を与えたつもりでいつも威張り散らしていた。
自分に次はいくらでもある。
人生とは途方もなく自由だ。
そしてある時女は、これと言って特徴のない男に会った。
彼は何も持ってないように思えた。
なんの変哲もないようだったが、違っていた。
何が違うかうまく説明できない。
今までも同じように愛を与えて愛されてきたように思えたから。
でも
彼は自分が持たなかった心の全てを持っていたのだ。
女は皆に愛を与えていると思っていたが、
女は愛を知らなかった。
女は彼のそばを離れないことにした。
そうして
彼はすぐにおじいちゃんになりました。
何十年か一緒にいて、彼がいつか死んでしまうとわかった時、おいおいと泣き続けました。
そうしたらいつの間にか女もおばあちゃんになっていたのです。
彼が亡くなった時、自分も老いたことをうれしく思いました。
何も知らずに何百年も生きていたのです。
女は彼のすぐ後を追いました。
自然と冷たくなり動かなくなったのです。
でも女は悲しいなんて思いませんでした。
とても幸せだったのでした。
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