投稿日03/30 20:49

「ドーナッツをめぐる冒険」
ひよこ

「めちゃくちゃうまいドーナッツがあるらしい」
隣の席の山田君が言います。
「ドーナッツの限界に賭けてですか?」
「もちろんだ、名前は、クリスピーなんとかドーナツだ!」
「そんなに美味いなら名前くらい覚えときなさいよ。」

「とにかく、1口食べたら、『マジうめえぇぇ!』って思うんだって!」
「それは、あの『ミスター・ドーナッツ』より美味いと言うのか?」
「そんなものは比じゃないはずだ。」
「じゃあ、あの、『ドーナッツ・プラネット』よりも美味いと言うのか?」
「なんてったって、新宿で1時間半待ちだ!!!」

…1時間半…
そんなに待ってまで人々が求めるドーナッツってどんなものだ。
だいたい、ドーナッツって言う食べ物自体、そんなにおいしくなりうるのか?
ドーナツっていうこと自体に限界があるんではないだろうか?
それだけ人が待つドーナツを一度食べてみたいものですね。

「というわけで僕は、今夜そいつを買いに行く。」
「仕事が終わってからですか?」
「23時までやっているからね。」
「やっぱり1時間は並ぶのですか?」
「鬼嫁の機嫌取りには、ちょうどいいノルマってことだ。」
ご苦労なこった。8時に仕事を終わらせて、急いで新宿へ。
ドーナツを手にするのは、10時くらいだろうかな。

翌日、一歩先行く山田君の登場です。
「いやぁ…もう…ウマいなんてもんじゃない!めちゃくちゃウマい!!!」
まわりが誰も食べたこともないことをいいことに、ドーナツを絶賛しまくってます。
自分だけがその味を知っているということだけで、勝ち誇った気分なのです。
「ありゃね、絶対食べたほうがいいよ!」
「いいかい、名前はね、クリスピークリームドーナッツって言うんだ!!!」
昨日まで知らなかったじゃない……

しかしそんな事言われるとやっぱりそのドーナツが、めちゃくちゃ美味いんだろうっていう想像が膨らみます。未知の世界です。皆がそのドーナツの虜になるんです。

「そんな美味いドーナツはどんな形をしているの?」
「どんなって…普通のドーナツだよ。」
やっぱり男ってそういうの疎いのね。
「…色々あるじゃないの、オールドファッションか、ハニーディップかって言ったらどっちなのよ。」
「その違いがわからない」
でもクリスピークリームドーナツはとにかくおいしいことだけを言い張る。
「えーとぉ、生地が油っぽい感じで、いかにも揚げてあるって感じのやつか、パンっぽいもちもちした生地かってことよ!」
「もちもちって、あのCMでやってるやつか?」
「それはポンデリングだ。」
「あれも美味いよね。」
結局真相は定かではない、どんななんだ、クリスピークリームドーナッツ。
ひょっとして新食感?
クリスピーの名前の通りサクサクしているんだ、きっと。
でもどこがサクサクしてるんだ?表面だけ?それとも中までサクサク?
どっちでもサクサクは大好きだから大歓迎だ。
そして、めちゃくちゃうまいクリーム。
中からとろけるのかな?いや、上にたっぷりかけてあるんだ、きっと…
なんてうまそうなんだ…
食べてみたい。そのまだ見ぬ味に出会ってみたい!!

そんな夢を膨らましているところに、鈴木さんが通りかかる。
「なんか盛り上がってるけど、何が美味いって??」
「今、クリスピークリームドーナッツの話をしていたんだよ、あれ、めちゃくちゃうま…」

「あー、あれ、言うほど美味くないよねぇ!!!!」
「めちゃくちゃうまい!!!」

…同時。
ここで初めて否定するものが現れた。
わざわざクリスピークリームドーナッツを買うために、1時間も並ばない人間もやっぱりいた。

「え〜!!!!何言ってるの!めちゃくちゃ美味いじゃん!!ちょっとー!」
「あれ、甘すぎるんだよ!!!」

なんだか、だいたいどの程度かわかった気がしました。
きっとすごく美味しいけど、大味、甘党向けって感じなんだと思います。
神格化していたのもすっかり冷めました。
見た目もよくあるドーナツじゃないの。
スタンダードが一番美味いってことか。

ひよこは、甘党というよりはしょっぱい党です。
チーズケーキとチョコレートケーキについてより、
普通の煎餅とぬれ煎餅、どちらが美味いか、っていうことのほうが論戦です。

しかしながら次の休日は、やはりあの長蛇の列に加わることになるでしょう。
確かめてみたいのです。
そして、次の日からクリスピークリームドーナッツについてしたり顔で語ります。

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