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[1] 夕暮れに。
By 紅魚
07-19 14:12

少年は一人遊び。
それは待っているのだったけど、
誰かが気付くのを待っていたのだったけれど、
結局のところ
薄暮の満ちる部屋で少年は一人遊び
仰向けになって掲げた両手の
指先がもやもやとするから
その感覚の奇妙を掴まえようと
少年は躍起になっている。
四角の部屋。
床はとても冷たくて
背中はとうに痺れているのだけれど
一心不乱に、
ゆらゆらとヘリォトロォプの空気を掻き混ぜている。
窓の外では
街路に群れた雀が煩く啼き騒いでいて
時折、
硝子に丸い影を落としたりする。

少年は知っている
もうじきなのだと知っている。
指先のもやもやは微かに海の気配を手繰り寄せ始めていて
引き出しの奥の幸福な夏の記憶を呼び覚ます。
(ぼくはおぼえているよ、あのことあるいた)
少年の宝物の波と砂に洗われた硝子は
口に含むと微かに塩辛くて
唾液に濡れたそれは
遠く透明を思い出す。
ざわざわと街路の葉ずれは潮騒にとてもにているので
足の裏に砂のざらりを感じて
少年は少し戸惑ってしまう。
(あのこのてのひらはとてもあつかったんだ)
いつしか少年はうとうとと微睡み出す。
波の音。
微かな波の音。
木立ちのざわめき。
(おおきなおおきなくじらのやさしいこえがするよ)
放心の唇からあ、と洩れた声が少年を覚醒へと引き戻して
少年は溜め息を吐いてしまう。
ひたひたと夜の匂い。
潮が、満ちる。
(もうすぐだよ、
もうすぐまたなつがきて、)
海の気配を孕んだ空気の密度は彼には重たすぎて、
見上げた瞼の無くなったような感覚に
少年はほんの少し途方に暮れる。
(また、なつがきて、)
海鳴りのような遠雷に首を竦めて
小さな声でもうすぐまた、と呟いてみたりする。
(ぼくはくじらにあいにゆく)
少年は本当のことを何処かでちゃんと知っていたから
いつも
どうしようもなくゆらりしている

ゆらり、ゆらり、
少年は独り遊び。
本当は待っているのだったけれど、誰かが気付くのを待っていたのだったけれど、
彼だけの夏の箱庭で、
一心不乱に
いつまでも独り遊び。

それはとても困ったことには違いないのだけれど。



V803T
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[2] By 紅魚
07-31 02:44
移行期の不安定。

留守番は、
大人になった今でも、
途方に暮れてしまいます。
V803T
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