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[1] 神様の木
By 紅魚
10-12 01:03

すすきヶ原が風の形に擬態して、
空気はしゅわしゅわと微かなあぶくを吐いている。
どこかの家から、
ほくほくと夕餉の匂い。
紫紺の空は、
星がまたたく一瞬前の緊張を孕んで、悠々。

あたし、猫、
ふたりぼっち。
セイタカアワダチソウの群生を、
息停めて、歩く。

あの薔薇線の向こう、
切り崩された赤土の小山の、
端から三本目。
大きな大きな神様の木。
お供えをすれば願いごとが叶うんだって
小さなあたしは信じていて、
あの頃、
うろには、
どんぐりだとか、
花だとか、
捧げものがたくさん詰まっていた。

秋の風にスカァトくるり、
ポケットにコンペイトウ。
両手に一杯分のお星様です。
ヴィナスに呼ばれた月ノ狐が
目を覚ます前に、
いこうよ、
はやく、
いかなくちゃ。


かさ、と落ち葉の感触。
その下の土のふわりと、
還る生命の、ぬくさ。
薄闇の空気の、
ぎりぎりの密度。
そこはまるでプゥルです、
深い、深い、深い、
どこまでも深い。

それなのに。

怪獣みたい、
な影、
の重機、
と剥きだし、
の粘土、
の匂い、
が痛い。

痛、い、よ。

コツと肩を弾かれて、
見遣った先に、
弾丸。
殻被った、
神様の、子供。

猫、
神様は椎の木だったよ、
くるむ殻の中に、黒い、木の実。
しってる?
これ、
たべられるんだよ。
神様は
たくさんたくさんをくれるの。
ねぇ、
ねぐら取られたら、
鳥は何処に行くだろう、
虫は、あの子らは、
あの日のあたし、は。


うろの中、
とっときの宝物(猫にも内緒)と、
星屑のお菓子。
放り込んで、
目を閉じる。

ね、猫、
あの頃はこの穴も、
もっと高くにあったの。
いつの間にか、
あたし大きくなって。
お願いも、
しなくなって。
でも、
だけど、

神様。
どうか、
どうか、
この場所が。
この場所、を。

コンペイトウ、昇って、お星様。
どこからか、
お風呂の匂い。
お家に帰ろう、
お家に、帰ろう。
南の空の悠々。
魚の口が、
秘密のお祈りを飲み込むよ。

秋の風にスカァトひらり。
ポケットには椎の実。
両手いっぱいの、
小さな弾丸。

明日
空がきれいに晴れたら、
何処かとても高い場所から、
神様の子供たち
世界目掛けてばら蒔くつもり。
芽吹いて
いつか世界を覆って、

総てが優しく、
なれ。


V803T
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[2] By 紅魚
01-09 16:33

夜が来る一瞬前の、鼓動。
かみさま、を、信じていました。


810SH
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