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[1] 飛翔前夜
By 紅魚
02-07 13:56

夕日は鳥居の向こう、
もう届かない国へ、くるくると沈みます。
流れては分散するとろりとした温みと、
世界灼くような、最期の、あか。

あの日放たれた鳩が、
ひたひたと寄せるあをに戸惑って、
ぐるると咽を震わせました。
(ほんとうは、もういないなつを、なげいたのかも、しれない。)
鳥居を抜けて海側から流れる風は、
凝って弾ける一瞬前の、水の匂いがします。

鳩に、なりたい。
きりきりと張り詰めた空が潤み出す頃合い、
見計らって飛ぶのだって、
決めたから、鳩、に。

いつだって、水底から月、見ていたから、飛び方なら知っていて、
ただ、ただ、
敏感すぎる鱗は、
嫉妬する星に触れれば火傷する、って、
それだけのこと。
許されるために放たれた彼等だったなら、
きっと、とても遠くまでゆける。
(しってる。ごめんなさいが、つばさのなまえ。)

此処は、
零してしまったさみしいが、流れて染めた空、です。
その嘘みたいなGradationを、《海》と呼ぶことにして、
羅針は北を示しているから、風の隊列を避けながら、深く、深く、
できるだけ深く飛ぶ計画。
滲むよにやってくるあをの流れに揺れながら、
りゅうの背を辿ってゆけばいい。
帰巣本能、本能、
ほんのう。
(あたし、おうちにかえるの、かえる。)

ひとつ、ふたつ、みっつ、
指折り数えたなら、
最後に残った左の小指には、春が、灯ります。
ちりちりと痛む指切りを包むように、です。
(だって、やくそくしたよ、かならず、っていった。)
深く刻む流れの上に指先で残した痕が、標。
ひよひよと聞こえるあれは歌、なのかも知れません。
よんでいる。
はしゃぎながら、よんで、いる。
羽音に重なる、酷くでたらめの、優し過ぎる歌。

(ある・びれおがにせもののびゃくやをひいてくるけれど。うそのたいようのしろにとけてしまいそうだ、けれど、)

つ、と流れる星の軌跡はあの夜の涙によく似ていて、
温められた夜はちりちりと鳴る。
孵化の音です。
割れた殻の隙間から、朝焼けの、色。
(うそじゃ、ないよ。
あのおひさまは、うそじゃ、ない、よ。)

この懐かしい紅の中なら飛べる、と、
朝の風に尾鰭を流して、
はら、と散る鱗はつばさに変えて、

踏み、切る。

進路、北。
あの、夏の歌を連れてゆきます。


810SH
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[2] By 風見
02-26 21:29
呑まれてしまいたい、飲んでしまいたい。
世界を見つめて、自分だけの名前をつければ、こんな微熱に近づけるのでしょうか。
目の保養になりました。ありがとうございました。
F902iS
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