01/31 23:41
「「イズイズ」の彼。」
心羽
中学一年生の時。
初めての英語の授業で、一人ずつ自分の名前を英語で言うっていうのがあった。
「マイネームイズハナコヤマダ(仮)」
と、一人ずつ席を立って言っていくのだ。みんな慣れないながらも恥ずかしげに席を立ち自分の名前を言っていく。その何ともいえない雰囲気を一気にブチ壊した彼がいる。
マイネームイズイズの彼だ。
先生が、「次は〇〇くん言ってみようか」と声をかけると、彼はモジモジしながら席を立ち
「マ、マイ…ネームイズイズ…」
先生も含め、みんなは「え?」と一瞬にして彼を見た。退屈な教室の雰囲気が少しずつ壊れていくのは、先生を含め誰もが気付いていた。
先生は彼を励ますように「もう一度言ってごらん?」と、笑顔で彼に言った。
「はい…。マ、マ、マイネームイズイズ…イズ…」
先生の笑顔も虚しく、この2度目の発言で教室は爆笑の渦に。
彼は、どうしてもマイネームイズイズと、イズを二回言ってしまいその先へ進めないのだ。
それから何度も先生に言われ、彼は頑張っていたがマイネームイズから先へ進む事はなかった。
新学期早々、彼のあだ名は「イズイズ」になったのだった。元々、独特な雰囲気があり常にモジモジしてる彼だった。
私はどうしてそうなってしまうんだろうと、お節介な事をその夜考えた。
「マイネームイズイズ…」そう湯船に浸かりながらブツブツ言っていたら、私までもがマイネームイズイズから先へ進めなくなったのだ。勝手ながら、彼の気持ちが痛いほどわかってしまう入浴になってしまった。
そんなモジモジとした「イズイズ」の彼の姿を、数年ぶりによく行くスーパーで見る事ができた。
「いらっしゃいませ!」
と一番大きな声を出して、テキパキと接客をこなしていた。「イズイズ」とからかわれた彼はもうそこににいなかった。何年ぶりかに見た彼はモジモジくんではなく、しっかりとした大人の男性になっていた。
私は、もう彼を「あ、イズイズだ。またモジモジしてんのか?」と、思う事はもうないだろう。
彼に「ありがとうございましたっ!」と大きな声で渡された買い物袋が、私をそうさせたのだった。
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