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[1] 人らしきものの、世界/変な男
By 変な男
05-12 13:09

 街並みは、蜃気楼に全体を覆われ、激しいディストーションが掛かってしまったようだ。それとも私という人のような存在の双眸から送信された、映像群を、なんらかの形で誤った捉え方をしてしまっているだけなのかもしれないが、私にはそれが分からなかった。私の目が私である根拠など、何処にあるだろうか。今も独立性を持って、見たくないものを見せているではないか。
 そして、そこから視神経の管を登って、私らしきものが感じてしまう全てを読み取って感じてしまう、脳。これもまた私であると認める材料などないのである。私は、脳君や目君とは違って、見たくもなければ、周りの景色を理解したくはない。




 街並みといっても、それが街並みであると私が知ったのは十何年も前の事だった。人類全体で考えると、きっとだいぶ前だろう。しかし、それがなぜ街並みなのかを説明を要求された時、誰もが言葉を止めるに違いない。
 或いは博識ぶった学者とやらなら、なぜそう呼ばれるようになったのかという経緯なんかを引っ張ってきて、分からせようとするのかもしれないな。それでも私は、街並みが街並みであるとは到底感じないのであるが。だって所詮は何事も誰かさんがこうである。と、豪語したにすぎないし、街並みにしたってそうなのだろう。所詮、人らしき誰かが定義したにすぎないのだ。人間、さえも。



 いっそ、全てが歪み、形を失えばよいのだ。不可視なものの勝手な器が人間の肉であるのなら。腕も足も、街並みも、何もかも最初から知らないのかもしれないし、知ってさえ、いないのかもしれないよ。では、腕とはなんだ?足とは?
 私は喧騒に苛まれた。決して理解出来ない喧騒に。恐らくディストピアとは私自身であろう。




(ほの暗い深淵の底
 雫の堕ちる音がする
 それが反復される
 それが苦しみだろう
 自然界のレトリックに
 脳が翻弄されている
 死、ならば死は解放であろうか?
 私にとって永遠は十年、
 永遠は二十年
 永遠は八十年
 その中で私は、
 私で居なくても良い
 なぜなら私は、
 私次第で私でなくなってしまうから
 他の誰でもない
 私が私と認識しなくなった時、
 私はこの深淵に身を溶かし、
 深淵は私と交接する)




 蜃気楼に歪む街並みに、裏返しの家々が浮沈する。ヨーロッパ調の家屋、日本家屋、学校、学校のプール。不思議な事に水はプールに溜まったままだし、家屋からは人々が当たり前のように出入りしている。だが私には彼らもプールも逆さまに、不自然な形として映る。
 彼らにとって私がどのように映るのかは知らないが、彼らの私を見る反応を見ていても、正常なんだろうな。つまりこれはやはり、私の覚醒にすぎないのだろう。妄信的な彼ら、妄想的な私。だがどちらも真実だ。真実とは不可視なものでも、なれるのだから。
930SC
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