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[1] 肉体からの蘇生/変な男
By 変な男
05-13 03:59

 田舎の駅は不便であると感じる反面、確かな安心感がある。都会と違って一時間に一本の電車運行であっても、ずくに来るという法則がなくても、ここは、人の肉体の淵藪の地とはならないからだ。都会の駅は精肉機械でしかない。人間は肉を魂のように考えるから死をありがたがるのだ。肉と所謂魂的なものは別物だ。本来、魂が宿る場所は、常に学校の先生であり、同級生であり、単行本であり、ゲームであり、そして悪人であり、愛なのだ、と私は、海馬に刷り込んだ。つまり、私は私のために生を宿した事はない。それに、誰かに必要とされない私世界において、私の魂が喜べるとも思えない。



 (ここに来る前からずっと、私は君と一緒に居た/見えない事など大した問題ではない/上野の駅で、特急列車の切符を買って、機械を通す時。電車の中で、その切符を鼻の下に濃い髭を蓄えた身体の大きな車掌に見せた時。(君はこの時私の腕を盗んだ/腕だけが君の意志で動いたから、君がイタズラしたんだろうな)
 電車からホームに降りて、青いプラスチックの四つに別れたベンチの右端に座った時。(渡す事もないお土産の詰まった荷物を左横において/私の片方の太股をいじくり回した/片方は君でもう片方は私/きっと君は微笑する/然し右端といってもそこには特に拘りはない)
 そういえばこの田舎の駅舎は、大変古かった。確か、六十五年前から存在していると記憶している。君の年齢の、二十五を引くと四十の差である。そう、君より14600日も多く誰かを見送ったのだ。誰かの死を。それと比べたとしたなら、君がした事など実に些細な事なんだろう。




 (肉体以外のものが爛壊する。
  肉体を形として保つ骨と同じ役割が、
  抜け落ち灰と化す
  その中の一つのブラックホールに私の世界があり、
  どうやら私は世界の一部分でしかない
  闇の回転から、様々な顔が放出される)


 君.(二ヶ月前に同棲をしていた私の家の和室で、首吊りをしていた私の最後の私。発見時首を横に垂れて、顔を真っ青にした君)


 母.(アルコール依存性で肝臓を痛め死んだ。その時君は真っ先に駆け付けてきた/私は悲しんではいなかった/母は私を世界から殺したから、私は母を世界から追い出した)


(君はその後も私とずっと一緒に居た。会社の面接に受かり出勤の当日、君が私に弁当を作って私に手渡した時、あの日君は確か、柑橘系の香水の薫りがした)



 。



 君が首吊りをした朝、時計は七時を指していた。私が寝ている内に、見計らってやったらしい。その前の日の午後11時、私は君に、やめたい、と、それは、私の愛だった。君は何も言わなかったが、君は何かを探していた。たじろう目に、私は一方的な喪失に酔っていた。きっと誰の為でもなかったんだろう。世界なんて無かったんだろう。私の世界にある愛は私自身であると、私自身は君である事を、肉体とは乖離した部分が求めていた。私の幻想が瓦解する事よりも先に、君は私の母となった。朝の7時10分、警察に電話をした。パトカーのサイレンの音が近づくと音の波は鼓膜を溶融させた。電話で何を話したのかは覚えていない。恐らく事態を考えても状況と住所などを話したのであろうが、どんな話し方をしたのか、どんな息遣いだったのか、彼女の亡骸を見た後の事は粗空白だった。然し混乱していたからではない。君は肉体とは違う次元で私の中に入ったのだと、私が肉体とは違う次元で君の中に入ったのだと、そう悟った時、私は君になった。君は私になった。知らない内に、私の魂が、それに気付いたからなのかもしれない。



 東京から私の田舎まで来て、3日になる。海沿いの綺麗な町だ。漁業が盛んで、秋には秋刀魚の水揚げがピークを迎え、その新鮮な秋刀魚は、築地まで運ばれる。君もスーパーで買った事があるかもしれないな。身寄りのない君の葬式を此処で行って、君と一緒に君の棺桶を見送った。焼却が終わって出てきた君のか細い骨を、君が私の腕を使って骨壺に入れた。一晩宿に泊まって、次の日、私と君は母の墓前に立つ。母の両親も入っている墓で、家の名前が確りと刻まれていた。私には財力がないので、親戚の勧めで、此処に入れさせてもらったわけだが、まさかまた母に関わるとは思わなかった。君が言わなければ来る事も無かっただろう。かといって何をするわけでもない。私はただただ虚しいのであるが、君は町の商店で買った線香に私の手を使ってマッチで火を付け、供えた。独特の甘いような匂いだ。焼き芋を焦がしたようななんとも言えない匂い、私はこれが大嫌いだった。そもそも君は私に何がさせたいのだろう。(君は答えない)ただ思い浮かぶのは、私の肉体の全てがこの町で始まったという事だ。私と母がこの町に居た時、父が漁師を辞めて消えるまで、私達親子三人は、この町の六畳二間のボロ屋に住んでいた。ボロ屋を越えて小屋だった。私が七歳の頃の事だから、大して記憶にはないが、父の釣った鰯を三匹、母が七輪で焼いていたのを思い出す。その頃の母は、優しかった。酒など一滴足りとも飲まなかった。いや、だからなんだというのだ。その後父が理由も分からず失踪して、生活に困った母は仕事の無い田舎を出て、身体を捨てた。だからなんだと言うのだ。



 (私のせいだったんだろうか、
  君は私として罪を背負いたいと
  私の肉体のためが故に、
  母も君も潰えたのだと
  君はそう言いたいのだろうか
  確かに母が酒浸りになったのは
  私のせいである
  あの頃母は私のために酒を飲んだ
  そして君もまた、私の歪んだ愛故に、死んだ
  然し君と私は同じはずなんだ
  肉体とは違う場所で
  私は君となり君は私となったのだ
  肉体が母を、君を、
  私を滅ぼしたのだとするなら、
  私は肉体とは違う次元で君と…母と。
  もう一度生きるのだ。
  肉体がもう私達を
  狂わせる事ができないように)




 (灰と灰のように
  水と水のように
  物体としての役割を終えて
  重力を欺いた性器に
  私は射精し続ける
  君が星として地球に墜ちると
  私は地球として星に墜ちる
  終わりも始まりもない
  私は肉体から蘇ったのだ)
930SC
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