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[1] 受胎告知/変な男
By 変な男
10-07 04:28

 静寂の滑らかな肌を滑落して、
 死人の上に顔から落ちると
 腹を突き破って顔を喰われた
 死人に喰われるというのも
 変な話ではあるが
 落下する瞬間に、
 大口を開けて奴が、
 牙を剥き出しにしたものだから
 瞬間的な対応ができなかった
 必死になって逆さまのまま足をばたつかせるが
 その一つ一つの動作によって
 死人の思惑通りに自分から、
 底に埋もれていく


 死人だけに体力は僅かしか
 残されていないからなのだろうか
 冷たい呼吸を冬風のように叩きつける以外に、
 死人は何かをしようとはしなかった


 ぽふぅ ぽふぅ と、
 腹から二酸化炭素が漏れでる音が響く
 軈てその反復の頻度が増す
 身体の、顔から胴体がもはや死人のものとなり
 短い足がぽろりと現世に留まるばかりである


 このまま喰われちまうんだろうか
 私の人生は死人に喰われて御仕舞いか、
 肴臭い息と、滑る唾液に、
 限りなく中和された魂が
 最後に足の上の地平線に執着する
 地平線のAから始まって今、
 相対するBに到着したのだろう


 Aの時、父の都から母の門を通り旅に出た
 母は色彩の魔女だった
 父の王国が、都と色を喪失したのは
 私が旅に出た後だった
 母は色彩を王国に捧げ、
 新たなる王と色を奪い合う日が続いた
 最早、都には王家の面影はなく、
 私が帰る頃には、もう
 母も王も父も私の色が分からなかった
 そう、思っていた


 骨が碎ける。
 死人が私を咀嚼し始めた
 先ずは腕の骨が粉塵と化す
 肉が剥がれ垂れ下がっているらしく
 残った箇所に湿った音を立てながら
 追突する
 次に顔が碎かれる。
 視界を喪失し、
 首の皮一枚で神経を繋ぐ
 いっそ早く終わらせてほしい、
 と懇願するが
 喉はもう、無かった
 次に死人は肋骨を味わう。
 肋骨だけは碎ける音が他とは違った
 秋刀魚にかじりついた時の
 感覚に似ているに違いないと
 思うのと同時に、
 木の枝を数枚同時に砕くような音が
 十二回も口内に響いたので、
 あまりに五月蝿かった。
 そして最後に足の番だ。
 骨が粉砕された上半身は、
 力なく干された稲藁のように
 牙と牙の間に挟まれて垂れ下がっている。


 長い長い葬列、
 白銀の棺桶を城下へと騎士達が運ぶ
 白い鎧が重たそうな音を立てる
 同じ足踏みでゆっくりと、
 騎士達は規則的に進んでいく
 その数百もの騎士の列が巨大な石門を潜る
 王の死は民に嘆かれ、騎士は沈黙の涙を溢す
 それを大きな掌で受け止める白いドレスの王妃
 美しい顔立ち、
 風に靡く黄金の髪が飛翔し、
 光輝する城の上空を、
 舞う。


 その黄金の糸をすり抜けて、雲に一筋の穴が開く
 騎士と民達が見上げる先には
 城を照らす、幾筋もの光の束である
 黄金の糸と交接し、舞う虹色の羽根に
 皆の歓声が上がる。


───おぉ、あれは大天使ガブリエルよ!!
930SC
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