返信する
[スレッド一覧へ]
[1] 炭酸世界/而
By 而
01-02 18:14

 小さな天窓から落ちる水滴に宿される多様な映像がコンクリートに弾ける。分裂した水滴の各々にも映る大切な大切な美しき世界。反復する炭酸が、弾ける事をやめないから、彩度は今日もなくなって、感覚の価値観が狂い、ジュデッカの恐怖さえ消え失せて。


 湿度に支配された正方形の牢屋の、一幕。秡秡とスパークする黄色い蛍光灯が弾ける。破片が舞い散り、羽根の如くひらひらと仰向けの俺の元へと。そしてそこにも視界がある事を知った、朔日。空気中の埃がまた、弾けた。世界は炭酸で構成されている。


 此処に鍵は要らない。闔など最初から無い。錆びた鉄格子と外の無い天窓、これさえあれば人は生きていける。始まり、何歩か進めば何個か手元にかき集めて億個を捨て去り、それらは弾ける。また何歩か進めば手元から抜け落ちる遺失物が弾け、またかき集める。例えばあなたとかお母さんとか芸術とか石さまざまもそうやって炭酸に還元されていく。


 黄金色が広がる、麦畑の、ミステリーサークル、秋風で穂が揺らめき、擦れ、音階が放たれて、空に上がる。サークル内に音は無い、穂も無い。周囲のそれらは全て刈り取られ、聴いたり、見たりする事しかできない。井の中の蛙は、常に弾ける生命達の記憶を見届け、井の中の蛙は各々牢屋を飼う。彼らは何歩か歩いて、俺のようにかき集め損ねて、何も弾けなかった。


(世界は炭酸で構成されている。)


 俺の心臓の中で、友達が母親が彼女が、少しずつ弾けて。何も無い腕で、口を塞ぎ、漸く腕の意味を知り、弾けたもの達を決して放ってしまわないように、もがき、もがき、そして少しずつ漏れて、失って、また漏れて、失って。


(正方形の牢屋の、一幕)


 弾けた世界達が決して外界へ消えてしまわないように。決して消えないように。綴じ込めて、


 仰向けの俺の前を様々な映像が弾けて、飛び交って。軈てこれが人生だと知る。
930SC
[編集] [返信]
[*前][次#]
返信する
[スレッド一覧へ]
ボイストレーニング法


BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」