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[1] ジョナサン/鈍色のメッキ
By ジョナサン
08-16 00:00
私はメッキを着ている
重々しく雨を抱えた雲のような
魚の目玉のような
ひどく鈍い
私はメッキを着ている
これを着ていれば何でもできる
仕事もこなせる
恋愛もできる
空だって飛べる
そんなとき私は
無敵なのだ
悩みなんてひとつもない
心は喜びに満ちている
ぼろぼろぼろぼろ
ぼろぼろぼろぼろ
何かがはがれる音がする
何かが落ちる音がする
何かが死にゆく音がする
私は大手を振って歩く
街中を颯爽と歩いて行く
社会も 世の中も
私には歩ける
ある時私は顔ををぶつけた
私のゆく手を遮った
それは 私だった
メッキを着ていない私
彼は服を着ていなかった
両手をこすりあわせて寒さをしのいでいた
私は驚いた
彼はぼろぼろと涙を地面に落としていた
それを見て私は強烈な嫌悪感を抱いた
見て見ぬふりをしようと歩きだした
すると 彼は私の腕を掴んだ
その拍子にメッキがぼろぼろと剥がれて地面に落ちた
振り返ると彼は私を睨みつけていた
たじろぐ私の首を両手で絞めてきた
私は動揺して彼を突き飛ばした
それでも彼は私を殺そうと手を伸ばした
逃げても逃げても彼は追ってきた
私は汗だくになりながら走った
私はつまづいた
それは私からはがれたメッキの山だった
彼は私の首を締めながら泣いていた
私も泣いていた
今までつくりあげたメッキがバリバリと剥がれてゆく
ああ! なにもなくなる なにもなくなる
すべてが崩れ去るのをただ眺めるしかない私に彼は言った
はじめからなにもないんだ
僕も 君も
ただの 僕であり君なん
君は無敵じゃない 赤ん坊と同じ人間だ
君が空を飛べるはずないじゃないか 君は人間なんだ
人間 人間 人間 ただの 人間
ほら メッキがはがれた君は 僕と何も変わらないじゃないか
いいかい 僕らは生きているだけで罪深いんだ
他の人達とは違う
僕らは出来そこないだ
不良品だ 欠陥品だ 流産でなかったことにされた存在だ
それをどんなにメッキで取り繕ったところで・・・
いや わかってるはずだ
君だって十二分に
だからそんなに泣いているんだろう?
僕らは二人でひとりだ
光と影 オスとメス 太陽と月だ
だから もう少し僕を愛しておくれよ
じゃないと僕 君を殺さなきゃならないから
本当はそんなことしたくないんだけど
だけどどうしようもないんだ
さみしいんだよ
まるでこの星にひとりぼっちみたいに
そう言うと彼は身体を震わしながら歩き去った
わたしは涙が止まらなかった
それは本当は彼を殺したかったから
それは本当は彼に殺されたかったから
剥がれたメッキの上でひとり
裸で身体を震わせている
私は それでも
鼻をすすりながらメッキをかき集めている
足音がする
彼の足音が近づいてくる
今度は殺されるだろうか
分かっていても
それでも
私はメッキをかき集める
pc
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By 煤
08-16 04:54
男はつらいよの車寅次郎のような虚飾のない、誰とでも素で打ち解けられるような生き方に憧れていた時期もありました。それは、僕が病的に人目を気にする性質だからです。ですが、嫌われないために、または上手く生きる術としてうわべだけで生きる事って実は正直に生きる事よりよっぽど辛いんじゃないかななんて、この作品を通じて思いました。
今回の作品は鍍金で全身を塗り固めた人間と、素の自分との対峙が主な構成となっていますが、面白いテーマだと思います。
ただちょっと文が長い印象がありました。無論それが悪いとは思いません。内容によってはそうした方がより高尚なものに仕上がるからです。然しこの作品はもう少しコンパクトにして、読み手にじっくりと且つテンポよく読ませた方が良いのかなとも感じます。が、然し、一人称小説のような語り口は斬新なので、これは素晴らしいものでした。
また、科白の部分ですが、折角ですから括弧で閉じて小説のようにした方が分かりやすくなるではないでしょうか。文と区別した方が綺麗に纏まる気がします。
無礼な事ばかり書いてしまいましたが、最後のシーンは意外性がありました。大抵の作品は救いを持ってきてラストを迎えさせますが、今作では再び剥がれた鍍金をかき集めるという形での終わりで、救いどころか同じ事が繰り返される。これが内容によりリアリティーを持たせている気がします。
長くなりまして申し訳ありません。酷く稚拙な感想となりましたが書かせていただきました。失礼致します。
Android(SBM009SHY)
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