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[1] 残影/PIERROT
By PIERROT
03-04 04:38


過去に置き忘れたものは
未来に置き去られたもの
過去が現在だったころ
できなかったことが
未来という現在で
燻り続けているもの


会えなかったのではなくて
会わなかった人たちの吐息が
背中越しに 吹雪いてくる
それに凍えて 部屋で踞る
そんな夜を あと幾つ捲れば
罪はあがなえるのだろう


水葵の花から滴る青い雫が
沼の水面にほどけとは
結ばれてゆく
黄葉は青ざめ
秋雨は鋭く優しい
雨音を立てて
私の傘を叩く


映し出された私の顔が
散歩道の水溜まりで
波紋に揺れる
無表情とは
何もない表情ではなくて
何かで溢れた
虚しい顔なのかもしれない


誰もいない 静かな真昼の
まるで病室のようなバス停
田園風景が絵画のように
歪んで見える
揺れる瑞々しい稲と
雨に濡れた惨めな案山子
隣には 八年前のあなたの影
影でも 今では満たされる
そんな空っぽの心に
蝕まれるのも心
小川の氾濫する音とともに
私は決壊していくのだった


夕焼けの太陽が
離れた山々の稜線を際立たせ
スーパーの屋根から落ちる雫
三ヶ月前に閉店した 店前のベンチから
通学路だったこの店に入っていく
私の残像と はしゃぐあなたの残像を見る
もう二度と取り戻せないのなら
もう二度と目を開かずに
いられたらよかったのに
目の前に
制服姿の影がぽつりと現れ
私に微笑する
長い黒髪は冷たい風に揺られ
私は無残にほどかれてゆく


優しさと臆病は違ったの
あなたが言葉と同時に溶解していく
モノクロの携帯電話のムービー
何年たっても褪せない世界などないように
あなたの言葉も腐りかけた黒板から
薄くなって 窓から飛んでゆくよ
あんな風に私も
消えていきたかったのだ
ピアノの音が
廃校の音楽室から
聞こえてくる真夜中の教室
私の頬を 割れた窓から
吹く風が 穿ち
私の穴は より広がって
そのようにして
身軽になる私は
いまだに逃げ続けて
だからこそ追われ続けて
死にぞこなって


深夜の高速バス
東京に向かったあの日のバスは
東京に帰っていきました
乗客は私と運転手
エンジンの音と変わりゆく風景だけが
私と邂逅しては
消えてゆき
こんなはずじゃなかったと
繰り返される部屋へと
私を運ぶのはバスじゃなくて
私だと私自身だと知りました
いや本当は最初からわかっていた
だけれど言い訳で守られた場所で
死にたかったんだ


あなたの想い出
何も言えなかった
何もできなかった
あの日々の想い出に
馳せるとき
雨の降り注ぐあの秋に
私は帰れたのです
あなたの居た
あなたの生きた
あの世界に


太陽の下で音を立て
道に水を撒く 子供のあなたが
私に微笑みかける
初夏の蝉の音が
汗を吹き出させ
その水に入り込む
そんな私を叱る
やけに大人びた
そんなあなたに
私は心から笑えた
そんな人生があった


水葵の花から滴る雫が
会わなかった人たちの吐息が
過去に置き忘れたものは
あなたの居た
あなたの生きた
あの世界に
心から
帰るよ


おかえり、
ただいま、
そして
また
あした
雨の降り注ぐあの秋に
秋雨は鋭く優しい
雨音を立てて
繰り返される部屋へと
制服姿の影がぽつりと現れ
私は帰れたのです
太陽の下で音を立て
道に水を撒く 子供のあなたが
私に微笑みかける
あの世界へと




Android(SonySO-02F)
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