投稿日03/05 00:25
「記憶の欠片」
りんご
その人が歌っているのを聴いたのは、後にも先にもそれっきりです。
その時、全身を駆け巡った感情は、今でも上手く説明できません。
変に作るのではなく、自分の声で歌っていました。
それは紛れもなくいつも聞いているその人の声で、でもいつも話しているときの声とは全く違いました。
矛盾しているようですが。
その人が歌い出した瞬間から、後ろで歌っているその人を振り返ることすらできずに、ただその歌声だけが意識を支配しました。
何か感想を言わなくては、と思うのに、つっかえたかのように言葉は何も出なかったのを覚えています。
ラジオを聴いていて、あの時その人の歌った曲が流れました。
あの日聴いた歌声ははっきりと思い出せないのに、あの時感じた感覚は一気に戻ってきました。
焦燥感や無力感を打ち破るような曲でした。その人は、その曲を、ただただ真っ直ぐに歌っていました。
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