1日と18時間の彼女
僕がよく通ってるWMNというサイトの
1日と18時間で,その時の彼女に振られた俺を慰めて板
というスレからアイデアを得て作った小説です。
季節外れとか言わないでください!クリスマスネタしか浮かばなかったんです!><
なぜか日付が10月10日になってますが実際は10月23日です
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「うーん…こんなに食えないよ…」
午前6時。空はまだ薄暗く、街もまだシンと静まりかえる頃。俺は、夢の中にいた。
「きゃあああああ!!」
叫び声と一緒に、何かが崩れるようなけたたましい音が鳴る。
「な、なんだ!?」
夢の中から半強制的に現実に戻され、音がしたベランダの方へ振りむく。
硝子の向こうには、怪しげな人影が見えた。
こんな時間に人影…まさか、泥棒か…?
「いたたたた…」
硝子には、腰をさするシルエットが映し出される。
「…女?」
声は、確かに女性の声だった。…女泥棒?いや、泥棒は男しかいないというのは偏見なのだろうけど…
意を決して、窓を開ける。
そこにあったのは、目を疑う光景。
なんでベランダにサンタクロースの服を着た女性が居るんだ。
ああ、そう言えば今日はクリスマスイブだったか。なんにせよ、ベランダに居る理由にはならないが。
向こうも窓ガラスが開く音に気付いたようで、ゆっくりとこちらに振り返る。
「…どちらさま?」
「見て分からないかな?」
「…サンタ?」
「そのとおり!」
なんでサンタが、しかも子供の居ない家に来たんだ?というかそもそもサンタなんか居る訳が…
「はぁ…にしても人に見つかるなんてまいったなぁ…っ!」
立ち上がろうとしたサンタは、顔を歪めてぺたりと再び座り込んだ。
足から、血が流れている。どうやら、ベランダに置いていた植木鉢で足を切ったらしい。
「…とりあえず消毒ぐらいしてやるから、中入れ」
「あはは、きみ優しいんだね。名前、なんていうの?」
尻もちサンタに手を差しのべながら答える。
「隆。岡島隆」
「あいたぁ!もっと優しく…っ」
「サンタならこれくらいで喚くな」
消毒液を染み込ませた脱脂綿を、傷口にあてる。
「サンタとか関係ないでしょ…」
「はい、終わった」
消毒液などを、救急箱の中へ戻す。
「ありがと、隆」
「どういたしまして」
そういえば、まだこいつの身元も名前もよく分からないんだよな…
「ところで、人ん家のベランダで何してたの?」
「いや…ちょっとプレゼント配ってたんだけど足をすべらせちゃって…」
頭をかきながら、自称サンタは言う。
足を滑らせた?そこからどうなったら人ん家のベランダに突っ込むんだよ。
「そうか…しかし、サンタって空想上の人物だろ?」
「なんだってー!?私を見てもまだそんな事言うかー!?」
机をバンと叩き立ち上がるサンタ(自称)。しかし傷に響いたらしく、ゆっくりと腰を降ろし始める。
「あのね、サンタって本当に居るんだよ」
「お前一人でどうやって世界中の子供に配るんだよ」
「え?サンタは私一人じゃなくて世界中に何万人もいるよ?」
さも当然のごとく、サンタ(自称)は言う。
「ちゃんとサンタ協会ってものがあって、私たちが居るんだから」
「じゃあ、お前はどうやってサンタになったんだよ?」
「…生まれたときから、私はサンタだったの」
「は?」
「私は、サンタとしてこの世に生まれてきたんだよ」
「…そっか」
サンタの表情はどこか悲しげで、それ以上俺は何も言えなかった。
「手当て、ありがとね」
「いや、気にするな」
「そういえば隆にもプレゼントあげないとね。プレゼントというよりお礼だけど…何が欲しいのかな?」
「プレゼントって…子供じゃないんだから…」
しいて言うなら…そうだな。物ではないけど、女の子と過ごすクリスマスが欲しい。早い話が彼女が欲しい。
「えっと…なるほど。じゃあプレゼント配り終わったらまた来るから。私じゃ不服かもしれないけど…」
「は?」
「え?今彼女欲しいって思ったでしょ?」
キョトンとした顔で彼女は言う。
「いや、確かに思ったけど…」
俺、今口に出してないよな…?
「私はサンタクロースだから。人の欲しいものとかが分かっちゃうんだよね」
「…マジで?」
ヤバい、こいつは本物のサンタかもしれない。
「だからさ、プレゼント配り終わったら、彼女になったげる。クリスマスが終わるまでだけどね」
「え、ちょっと」
「じゃあまたあとでね!」
彼女はそういうと、ベランダから飛び立っていった。
「…サンタって、トナカイじゃなくて自分で飛ぶんだな」
かくして、俺に1日と18時間限定の恋人が出来た。
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――彼女になったげる、か…
「なのに何で25日になっても来ないんだよ!!」
時刻は午前零時半をちょっと回ったところ。クリスマスイブも終わり、クリスマスへと突入していた。
「もういい、寝よう…」
ああ、きっと今朝の事は夢だったんだ。彼女がほしいって思った俺が生んだ、妄想だったんだ。
「くそ…」
朝早く起こされたせいか、ベッドに入ってすぐに夢の世界へと旅立った。
「隆ー!起きてー!ドア開けてよー!」
ドンドンと、ドアを叩く。
「たーかーしー!」
「うーん…うるさいな…」
もぞもぞと布団の中で動くが、起きる気配を見せない。
「もう…しょうがないなぁ…」
「たかしー!起きろー!」
ドスンと、背中に衝撃が走る。
「ふへっ!?なんだ!?」
慌てて飛び起きる隆。
「へへ、おはよー」
そこには、笑顔のサンタが居た。
「おはよー…」
「約束通り、彼女になりに来たよ」
「そっか…」
彼女になりにか…そりゃまた御苦労さま…
だんだんと、寝ぼけた頭がはっきりとしてくる。
「…って遅いよ!」
「ごめんね、怪我のせいでいつもより配るのに時間食っちゃって…」
「…なら仕方ないか…ところで、どうやって中に入ったんだよ」
戸締りはきちんとしたはずだ。ましてや冬で寒いから、絶対に開けているはずはない。
「私サンタだよ?人の家に入れないと仕事が出来ないじゃない」
「…なるほど」
普段なら信用しないだろうが、読心術や異常なジャンプ力を見たあとならば信じざるを得ない。
「ところで、恋人と過ごしたいって、私とどうしたいの?」
「どうって…まぁご飯食べに行ったり…夜景見たり…」
ぐぅ、とおなかが鳴る。
「とりあえず、朝ごはん食べさせてくれ」
「いただきまーす」
焼鮭をおかずに、白いご飯をかっこむ。
「うん、美味い」
「豪快に食べるんだね」
「そうか?」
まじまじと食事を見られると、なんだか恥ずかしい。
「なあ、ちょっとサンタの事で訊いていいか?」
「どうぞ」
「24日の朝から配ってたけどさ、普通24日から25日の深夜に配らないといけないんじゃないの?」
「それじゃ配り終わらないんだよ。だから私は昨日の朝から配ってたの」
「ふーん…でもそれじゃ、25日にプレゼント受け取れないじゃん」
「だから、隠すの」
「隠す?」
「そう、私たちはプレゼントを25日の朝まで見えないようにすることも出来るんだよ」
なるほど…というかそこまで出来るなら逆に現場に行かないでも配る能力を身につけるべきだったんじゃないだろうか…
「他に何かある?」
「ん〜…あ、サンタって女しかいないの?」
「ん〜ん、男の人もいるよ。3:7くらいで男の人が多いかな」
なるほど…危うくサンタは女しかいないと勘違いするところだった…
「他には?」
なんだか妙に積極的だな…
「いや、今のところはもう特にないかな」
「そっか。また何かあったら訊いてね」
にこにこと笑いながらサンタは言う。
「おう」
…不覚にもサンタが可愛いと思ってしまったのは、ここだけの話だ。
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「で、どこに行く?」
「ん〜…とりあえずイルミネーションでも見に行くか?」
確か、電車でいくつか隣の駅の駅前にあるデパートに綺麗なツリーがあるらしい。
「ん、行く行く!」
やけに楽しそうなサンタ。
「なぁ、なんでそんなに楽しそうなんだ?俺はともかく、お前は別に彼氏とクリスマス過ごしたいとか思ってないんだろ?」
「んー、クリスマスをこんな風に過ごすのは初めてだからワクワクしちゃって」
そうか、仮にもこいつサンタだしな…
「…なぁ、名前なんていうの?」
「え?サンタクロースですけど?」
「いや、そう言う事じゃなくて…サンタはお前以外にもいっぱいいるだろ?」
「…私、サンタとして生まれてきたからさ…そういった、名前とかはないんだ。私に在る名前は『サンタクロース』だけなんだよ」
…なんだか、悪いことを訊いてしまった気がする。
「なら、俺が名前をつけてやるよ」
「え?」
そうだな、どんな名前が似合うだろうか…
「あ、雪だ!」
どこからともなく、子供の声が聞こえた。空を見上げると、まさに雪が降りはじめていた。
「ホワイトクリスマス…雪、か…うん、六花(りっか)なんてどう?」
「りっか…?」
「うん、数字の六に花って書いて、六花。雪の別名。素敵な名前じゃないか?」
って、なんで俺赤の他人に名前を付けてるんだろ。
「ふふ…まさかサンタがクリスマスにプレゼントを貰うとはね。ありがとう隆。名前、大事にするね」
「ん?あ、ああ…」
なんだか予想外に好評のようだ。よかったよかった。名付けた甲斐があるというものだ。
「それにしても寒くなって来たな…」
「はい」
手を差し出す六花。まさか…見えないカイロか?
「恋人って、手を繋ぐものなんでしょ?」
ああ、そういう事か…って、手、繋いでいいの?いや、今は六花は彼女なんだ…いいに決まってる。
ギュッと、手を握る。
「って冷たっ!!」
「あ、サンタってみんな体温低いんだよ。…こんな冷たい手じゃ繋がない方がいいね」
苦笑いしながら差し出した手を戻す六花。その手を強引に握る。
「馬鹿。こんな冷たい手だったら尚更繋がない訳にいかないだろ。暖めてやるよ」
ギュッと、力一杯に手を握る。
「…ありがと、隆。とってもあったかいよ」
「うわー!!すごい綺麗だね!!」
「おお…」
さすがに評判になっているだけはある。とても立派に装飾されたツリーだ。
「初めてこんなの見たよ…」
「え?外国とかはもっとすごいんじゃないの?」
「あ、私ずっと日本担当なんだよね。お家でやってるイルミネーションとかはよく見るんだけどね、こういうのは初めて!駅前にプレゼントなんか配りに来ないしね」
…そういえば日本語ベラベラだ。考えてみれば毎年受け持ち地区を変えるよりずっと同じにしてた方が効率はいいか。
「へぇ、サンタにも色々決まりがあるんだな」
「…うん」
少し表情を曇らせる六花。
「どうした?」
「ん?なんでもないよ!」
「そうか…」
気のせいだったか…?
「いやー、綺麗だったね!!」
「ああ、そうだな」
にしても、俺のためのデートのはずなのに、なんでこいつの方が楽しんでるのだろうか。しかし、女の子の笑顔に勝るものはない。
「ご飯何食べたい?」
「え、私が決めていいの?」
「うん、いいよ」
とは言ったものの、まさかフランス料理とか言わないよな…
「あのさ…」
耳元でボソッと呟く六花。
「え?そんなものでいいの?」
「だって…食べたことないんだもん…」
ぷう、とほっぺを膨らませる六花。
「分かった分かった、店探すぞ」
六花のほっぺをつついて空気を出す。…結構楽しいなこれ。
「うん!」
空気を出し切った六花は、笑顔でそう返事をした。
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「いらっしゃいませー!!」
「なあ」
「なに?」
「本当にラーメンでいいのか?」
俺にとっては大助かりだが…
「うん!」
「ならいいけどさ…」
空いてるテーブル席に腰掛ける。
「何食べる?」
「えーっと…たくさんあって迷うなぁ…」
まじまじとメニューを見つめる六花。
何でラーメン屋に入ると無性にチャーハンが食べたくなるのだろう…
「俺みそにするけど…?」
「ん〜…じゃ、私醤油で!」
「いただきます」
「あっつ!!」
慌てて水を飲む六花。
そんな六花を見て、思わず笑みがこぼれる。
「熱いのは当たり前だろ」
「分かってたけどさ…」
「まあ慌てずに食え」
「うん…」
ゆっくりと、麺をすする六花。
「…おいしー」
パアっと、顔が明るくなる。
「あんまりゆっくり食べ過ぎると麺が伸びて不味くなるぞ」
「え!?私早く食べればいいの?ゆっくり食べればいいの?」
「それなりの早さで食べればいいんだよ」
「なにそれ〜…でも本当に美味しいなぁ…」
ずるずるとラーメンをすする。
しかし人が食べているラーメンはなぜこんなにも美味そうに見えるのだろうか。これって、トリビアになりませんか?
「あー美味しかった!!」
「そうだな…こんなところにこんなに美味しいラーメン屋があるなんて知らなかったぞ」
たまには知らない食堂に入ってみるのも、悪くないかもしれない。
「じゃあ私のおかげだね」
六花はえへへ、と笑う。
「そうだな。ありがとう」
「どういたしまして」
「そろそろ夜景でも見に行くか」
雪も止んでいるし、移動も多少楽にはなるだろう。
「どこか綺麗な場所とか知ってるの?」
「ああ、とっておきの穴場がな…」
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「穴場って…ここ隆ん家の屋上じゃない」
「ああそうだけど?」
「綺麗な夜景なんて見えないよ?」
ほっぺを膨らます六花。
「そっちじゃない。こっち」
グイっと腕を引っ張る。
「わわっ…」
「暗いから足元気をつけて」
「うん…」
「ほら…」
「わ…」
家の屋上から見える街はとても小さくて。
でも、街自体がとても大きなイルミネーションのようで…
「綺麗だね…」
「だろ?彼女が出来たら一緒に見るのが夢だったんだ」
「夢だったのに私なんかに見せていいの?」
「何言ってんだよ。お前、俺の彼女だろ?」
「………」
六花は、泣いていた。
「おい、どうした。泣くな」
お前には笑っていてほしいのに。
「あのね…実はサンタには決まりがあってね…」
「うん」
「…サンタは、人に見つかっちゃいけないの。だから普段は人には見えないようにしてるんだけど…足滑らせちゃって慌てた時についつい姿を見せちゃった」
「…うん」
「…人に見つかったらね、サンタは罰せられちゃうんだ。もしかしたら、もうサンタで居られなくなるかもしれない…」
…え?
サンタとして生まれて
サンタという名前だけを持って
サンタとして生きて
…サンタで居られなくなる?
「それじゃ、お前どうなっちゃうんだよ!」
「分かんない…一週間後、協会で処分を言われるから…だから、私がサンタで居られるのは今日が最後かもしれない…」
サンタじゃなくなったら六花はどうなる?消える?そんなの嫌だ。
「私、ずっと生まれてから今までサンタとして生きてきてさ。初めてだったんだ。こんな楽しいクリスマス」
六花の目からは、とめどなく大粒の涙が零れ落ちる。
「普通の女の子になれたみたいで…私だけの名前も貰えて…本当に、本当に楽しかった…」
「六花…」
そうか。もしかしたら今日が最後かもしれないから、あんなに…
「隆…本当に、本当にありがとう…大好きだよ」
ギュッと、六花を抱きしめる。
「俺もだ。俺もお前の事が、好きだ」
こんな短い付き合いの中で、こんなにも人を好きになるとは思いもしなかった。
「ありがとう、隆…」
抱きしめたまま、六花にキスをする。また会えるように、祈りを込めて。
「…ごめんね、もう、行かなきゃ」
六花は俺の腕の中から離れる。
「また、会えるよな?」
「…分かんない。でももし、もしもまた会えるなら、絶対に会いに行くから!絶対…絶対…」
「ああ…」
あれ?なんだか、顔が熱い。どうやら、俺の目からも涙が流れているらしい。
「隆!ありがとう!!」
そう言って、六花は飛んで行った。
…こうして、1日と18時間の交際は終わりを告げた。
あれから一週間たち、街はクリスマスから正月へと化粧を変えている。もう、クリスマスなど遠い昔の事のように感じて、なんだか寂しい。
「やっぱりこの時期の神社は混むな」
さっさとさい銭を済ませよう。
財布から十五円取りだし、賽銭箱に投げ入れる。
パンパンと手を叩き、目を閉じる。
…彼女が出来ますように。というか、六花ともう一度会いたい。
「ねぇ、何お願いしてるの?」
不意に、隣から声を掛けられた。聞き覚えのある、懐かしくて愛おしい声。
目を開けて、右を向く。
「…六花」
紛れもない、クリスマスを共に過ごした女の子が、俺の隣に立っていた。
「また、彼女が欲しいとか願ってたの?」
「お前…どうして…」
「へへ、協会にさ、お前はサンタクビだー!って言われちゃって…それでさ、お前はもう普通の女の子になりなさい!!って言われてサンタ協会から除名されちゃった」
言いたいことはたくさんあるはずなのに、言葉が出ない。
「ねぇ、嬉しい?」
「当たり前だろ!」
「私も、隆とまた会えて嬉しいよ!」
どうやら、1日と18時間限定の恋人は、恋人期限が無期限に延びそうだ。
おわり。
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