好きな子がいたはず・・・
簡単に恋を叶える方法があります。でも…。
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オーティスには好きな子がいる。
彼女はシルヴィアといって、とても美人でとても頭がよくてとてもいっぱいボーイフレンドいてとても人気があった。オーティスとシルヴィアは友達だったが、ほとんど話しをしたことがなく、言葉を交わすといえばあいさつだけ。シルヴィアの周りにはいつも男たちがいた。しかも彼らはいい男ばかりで、いつも彼女を笑わせているくらいおしゃべりもうまい。もちろん、彼らもシルヴィアを狙っていることは誰にでもにわかった。
オーティスといえば。
オーティスは彼らみたくかっこよくもないし、話しも上手くない。特に取り得もなくすべてが劣っている自分に、彼女は不釣り合いだと勝手に決め込んでいた。そして、毎晩情けなさと悔しさと惨めさと寂しさとちょっとの優越感で、涙を流しているオーティス。
そんな毎日がどうしようもなく、また次々と流れているある日のこと。
郵便受けに一枚の広告が入っていた。
『恋のかなわないあなた…かなえます。是非電話をしてみては?』
オーティスは…、いや誰だって思うけど、疑うでしょ。もちろん彼も疑って信じかった。でもそれは、始めのちょっとの間だけ。すぐに、今の自分にはこれしかないと思い込んでだ。そして電話して、そのクリニックへすぐに出かけた。
彼にはこうするしかないみたい。
クリニックに着くとドアを開け、受付に行った。部屋の中は小さい待合室と受付と診察室だけ。他の患者は見当たらない。たぶん、患者同士が顔を合わせないようにしているのか、ただ、流行ってないだけか。すでにオーティスにはそんなことはどうでもよくなっていて、不安からくる緊張で、ドキドキしていた。
受付が終わるとすぐに呼ばれた。
『オーティスさん。どうぞ』
『はい』
小さい声で返事をする。
いつも思うけど、病院のあいさつや返事って、大きな元気な声も変だし、小さい声だと何か恥ずかしいがっているようで、よけいに恥かしい。
でも、オーティスはいつも小声で言う。だって、病人だもん。
診察室に入ると、いかにも怪しい医者と(もちろん)美人の看護婦の二人しかいない。しかも、その看護婦は受付の人と同じようだった。
『えーと、オーティスさん。どうぞどうぞ座って下さい。いやいやなんとも、今日は忙しいですな』
そうなんですか、と言いながら椅子に座る。
でも、言うほど忙しいようにはみえないけど。
『で、今日は、その、広告を見て来られたのでしたね。つまり、その、恋をかなえたいわけですね』
『そうです。もう、藁にもすがる思いで…』
『そうですか。そうですよね。でも、当クリニックは藁どころではないですよ。その、自分で言うのもなんですが、ノーベル賞ものの、その、平和賞ですね。の発明だと自負しております。どうか御安心をそして、御期待をしてください』
『はい。お願いします。どうか』
『では、さっそく治療についての説明をします。私共の治療はほとんど器具等を使いません。整形の類ではございませんので。そう、その、一種の催眠術。おしゃれに良くいえば、マインドコントロール。あっ、今じゃ、怖いイメージですかね、この言い方は。まあ、それはともかく、姿形を変えるのではなく、その人の、そのもの、その、なんていうか、“感じ”“イメージ”“雰囲気”を変えて、周りの人によい影響を与えるわけです』
オーティスには言っている意味がよくわからなかったけど、痛い思いをするわけじゃなさそうだし、それで、シルヴィアを振り向かせることができるのなら、と思いさっそくはじめてもらうことにした。
『では、まず、このクスリを飲んで下さい。これは睡眠薬です。あなたの意識はなくなりますが、脳は起きています。その状態で私が脳に直接影響を与えます。いいですね』
ドクターが錠剤を3粒取り出して、水の入ったコップと共にオーティスに渡した。
『そうそう、忘れてました。この治療法には一つだけ欠点があって、そう、問題があるのです。とてもとても、大事なことなのです』
なんですドクター!?と彼はここまできて何を言うのかと不安になった。
『いいですか。よく聞いて下さい。この治療は脳に直接働きかけるものです。そのため、その結果、そのつまり、あなたの脳から記憶が一つ消えてしまうのです。わかりますか? でも一つだけです。例えば、今日の朝食は何を食べたとか、です』
『朝食? それならもう忘れてます。大丈夫。大丈夫。それくらい。大丈夫です。ドクター。本当に』
『いえいえ、オーティスさん。朝食は一つの例えですが、いいのですか?』
『ええ。ええ。だって人間は毎日毎日色々なことを忘れていくではないですか。そのうちのたった一つぐらい、全然問題ないですよ』
『わかりました。では、それ飲んで下さい』
オーティスはクスリを飲んでからしばらくすると、だんだん眠たくなってきった。
それから、意識がなくなる。
そして、意識が戻る。
目を開けて最初にドクターの顔が見えた。
『ドクター?』
『オーティスさん? どうです? 気分は?』
『ええ。大丈夫。ええ。なんとも』
オーティスはぼんやりする頭で色々思い出してみて、何を忘れたか考えてみた。やっぱり朝食は思い出せない。他にも、いつもと同じくらい思い出せない。
『そうですか。では、治療はこれで終わりです。あなたはすばらしい男性になりましたよ。…たぶん』
『えっ、今なんて?』
『私、何か言いました?』
『…いえ、何でもないです』
『そうですか。では、もうお帰りになって結構ですよ。以後、通院の必要はありませんし、治療は一回こっきりですから』
『あ、はい、わかりました。あっ、そう、治療費はいくらですか?』
『ああ。ええ、治療費ですね。そうですねぇ、いい結果がでましたらもう一度お越し下さい。その時で結構ですので。では、さようなら。チャオ』
オーティスは半信半疑のまま、とりあえず家に帰り、すぐに彼女のところに電話しようとした。実際の自分がどう変わったのか鏡を見ても分からないし、ただ、何となく、何かができるという勇気が沸いてきていた。つまり、映画かなんかを観て、その影響を受けている感じと同じ気がした。オーティスはその変に浮かれた感覚をいぶかしげに思いながら、すぐさま行動にでた。
うん、電話だ。
あの子に電話をしなくちゃ。
きっと、うまくいく。
今までにないほど、オーティスは不安もなく受話器に手をかけてダイヤルしようとした瞬間。
帰ってきてから、もう2時間は悩んでいて、電話しようとした瞬間。
頭と心が同じ結論に達したその瞬間。
誰に電話しようとしているのかわからない。
いくら考えても自分が誰を好きなのかわからない。
誰かわからない女の子を好きなのは分かる。胸の苦しくなる感覚はある。さっきまで分かっていたはずなのに。顔も声も名前も思い出せない。
そうかっ!
オーティスはあのドクターの言葉を思い出す。
『脳から一つ記憶が消えてしまう』
なんてことだ!
オーティスは愕然とする。自分の恋をかなえるために行った行為によって、好きな女の子のことを忘れてしまうなんて。ドクターに対する怒りを絶望感が押し退けてしまう。
ボクはあの子を手にいれる力を得たというのに、その子が分からないなんて。
オーテイスは今になって、今まで彼女のことを好きでいられたことの素晴しさ、楽しさ、そして、その幸せに気付く。
結局、前よりも悪い状況になっただけだ。
しかし、オーテイスは諦めない。
忘れた記憶を思い出す、絶対あの子を捜してみせると。
そして、自分のアドレスの友達に片っ端に電話をする。
一人一人に聞く。
『ねぇ、ボクはキミのことが好きだった?』
みんなに聞く。
こんなことを聞くことの恥かしさなんて、どこかに飛んでいた。今までなら女の子と話すのも緊張して出来なかったのに。ましてや、告白なんて。
そして。
最後の最後に、シルヴィアという女の子に電話する。
『ねぇ、シルヴィア。ボクはキミのことが好きだった?』
『………』
『ええ、そうよオーティス』
『ほんとう!?』
『本当よ。それに…』
『それに?』
『アタシも前からアナタのことが好きだったの』
おしまい
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