ショートストーリ-〜ある男と女の話〜
男と女の出会いは衝撃的であった。
まさかこんなにも気が合うとは。
いや、こんなにも考えている事が同じとは。
互いにそう強く感じていた。
今まで生きてきた中でと、言っても過言ではない。

男と女はそんな互いに興味を抱き、そして互いに惹かれあったのだった。

ふたりでいる時間はとても濃い時間であった。
なにせ考えている事、思っている事がほんど同じだからである。

男が右を思えば、女も右を思った。
女が左を言えば、男も左を言った。

共通点の多いふたりは、話しても話しても飽きない唯一の相手であった。
ふたりでいる時間は次第に1日、2日と増えていった。
そして月日がたつにつれ、手にとるかのように互いを通じ合わせた。
ふたりは愛をさらに激しく燃えたたせたのだった。

互いの心理状態がわかるので、スムーズに物事が進む。
その点はマンネリ化しつつあるカップルからしてみれば何とも羨ましい話である。
男と女は互いに尊敬さえもしていた。
周りからみればなんとも円満なカップルであろう。

ある日、女は買い物がしたいと思った。
すると、男はすぐさま行こうと提案した。
男はこの前に女が欲しがっていたミュールを買ってやろうと思っていた。
女はミュールを買ってもらえる事をわかっていたので上機嫌だった。
そして男もまた、女が喜んでいる事をわかっていたので上機嫌だった。
すっかり上機嫌な女を男は愛しいと思った。
女はぽっと頬を染めた。
なんとも微笑ましい光景である。
その時だった。女がかぶっていた帽子が、春の訪れを思わせる風によってふわりと女の元から離れた。

一瞬の出来事である。

続く

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男はそれを追って、車道へ飛び出た。
そして、女が叫び声をあげた。
吹いた風と共に、男もふわりと宙を舞った。
鈍い音をたてて男は冷たいコンクリートへ横たわった。

女は男の元へ泣きながら走り寄る。
そして、震える手で鞄から携帯電話を取り出すと急いでボタンを押した。

「事故です!彼がたった今事故に合いました!早く救急車を!!」

「もしもし?どうしました?もしもし?」

「だから事故なんです!救急車!」

「もしもし?聞こえていますか?失礼ですかイタズラ電話の場合、対応出来かねますが」

女はイラついた。さっきっから電話の相手はとんちんかんな返事ばかりを返してくる。
男が大変な事になっているのに。

「もういいです!」

女はそう言い放つと電話を切った。
助けを早く呼ばねばならない。

とはいっても、なにせ人通りが少ない。
肝心の運転手は電柱に激突した車の中で気絶している。
女は叫んだ。

「誰か!!誰か救急車!」

すると、若い男が角を曲がって丁度やって来た。
突然目にした光景に驚きながら、座り込む女の元へ近付く。

「事故ですか?救急車は呼びましたか?大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃないわ!あそこに倒れているのは彼なの!救急車を呼びたくてもなぜか呼べないの!!」

「落ち着いてください!何があったんです?救急車は?」

「だから早くあなたが呼んで頂戴!!」

女は必死に若い男にすがりついた。

「ちょっと落ち着いてください!あなたはさっきっから何を喋っているんです?もしかして喋れないんですか?」

女は愕然とした。そういえば、もうずっと自分の声が自分の耳に届いていないのだ。

彼と出会ってから、"喋り声"は必要ではなくなっていた。

周りからすればふたりは異様なカップルであった。
突然笑いだしたり、相づちだけをお互いに打っていたり。
会話は全て心の声でしていたのだ。
月日がたつにつれ、お互いの言いたいことが、意識を通じてわかるようになっていたのだった。
結果、長いことふたりで居すぎた為に声はいらなくなってしまったのだ。


-END-

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