山里紅包粽子/島野律子



猫編5

同人誌「プラスマイナス106号掲載作品」

みねこはあんまりしゃべりませんが「まってたのよ」と玄関でお出迎えをしてくれます。いかにもそれっぽい態度で、のびなどしてみせたりするのですが、内実はなかなかぎりぎりらしく、たまに物凄いダッシュをみせ玄関に向かう廊下を爆走しているみねこを、開けたドアから目撃することもあります。
それでもなぜか、私の足下でのびなどするみねこ。一体何の意味があるのか。いえそもそも、なんで「まってたのよ」をする必要があるのか謎です。みねこはヒトが好きなのかもしれません。抱っこも撫で撫でも大嫌いなくせに。
みねこはマンガでよくある擬人化された猫の顔そのままで、何にも考えてない見事なおばかさんの癖に、神秘の叡智を思わせる表情でじっとこちらを見つめていたりします。はっきり言ってこわいです。
鼻の形がマンガ的なラインなのと、せっまい額とアイラインくっきりの目、むしろあれか、エジプトの壁画調なのか。
およそ関わりのあった猫の中でここまで欠落した猫などなかった位のダメなのに。
猫の脳重量は変動がごく少なく、神経系の実験によく使用されるそうですが、確かに犬よりも知能のばらつきは少ないような気が致します。そのなかで、敢えてここまでなあ。
お陰で猫飼育の苦労は激減しているものの、大丈夫か、みねこ。色々心配です。

みねこには扉の概念がないのではないかと思っておりましたが、獣たちの小屋がある部屋のドアに前脚をのせ大きく伸びなどしているところを見ると、ここが開くということは分かっているのか。
でも時々、どの扉が獣どもへ向かう道を開くのか分からなくなっているようなのはどうなんでしょう。
ここはマンションです。廊下を挟んでそりゃ扉は皆同じ規格と色だけれども、でもな、みねこよ。十や二十もありはしないぞ。「まってたのよ」をしている玄関脇のドアだぞ。
「なに?」みねこがヒトを見上げると、下前歯がないせいなのかとんでもない阿呆面になります。何を言っても無駄な心持になってまいります。

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まあ、お陰で部屋や押入れを荒されることもなく、粗相も吐き癖もないから家に帰って一仕事などということもありません。
我が家の台所はドアがないのでお出入り自由なのですが、ガス台にも調理台にも登りません、そもそも私がそこに立っていろいろ訳のわからん行動を取っているというのに、そこに何があるのかなんて気にもできないのです。
臆病さがかけらもないので、そういう方向での好奇心もありません。雪の中飢えてさまよっていた過去があるくせに、この猫は自分に悪いことが降りかかるかもなんて一瞬も予想しないのです。というか予想するなんてできないのです。
こんなみねこの同居猫を探す。そりゃみねこは問題ございませんが、相方にはいろいろ言い分が湧いて出ることでありましょう。さあ、どうする。
そろそろ獣たちの身の安全も心配になってまいりました。そんなにチンチラオヤジに鼻チューしたいのか、みねこ。そしてオヤジに「ぶぶっぶぶっ」と叱られてますよ。いや、全く身の危険を理解していないオヤジどもも、まあアレ過ぎるだろうとは思いますが。
叱られては「なによう」と拗ね、さらに執拗にオヤジどもに迫るみねこを止める術もなくし、やはり猫探しに励まなければなるまいとしみじみ決意いたしたわけです。

そんな私たちに救いの手が、かすかな隙間をたくみにくぐって差し伸べられてまいりました。同人誌「プラスマイナス」会員の方から、生後十ヶ月の雄猫の引き取り先を探している方がいるとの情報が寄せられたのです。
兄弟猫二匹のうち一匹しか預かれないので、断られても仕方ないと思いながら申し出たのですが、快く受けいれていただけたのでした。


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