山里紅包粽子/島野律子



猫編6

「プラスマイナス」106号掲載作品

・・・ほんとに猫の貰い手をさがすとは、難事業のようです。社宅で猫を飼ってもいいという条件でもって転勤話を受けたら、なかったことにされるってどうなんですか。
ペット可の賃貸は田舎ではまずありえないし、切羽詰って相談したボランティア団体には暗に安楽死を勧められたとか、いや、どれもこれも普通に生活していれば予想のつく出来事なあたりがまた嫌感増してます。
紹介された二匹の猫はどっちも白黒なんですが、どこが兄弟だよ。全く似てません。顔も体つきも性格も別物です。
送られてきた写真を見て、このこだ。密かに心に決めてはいたのですが、一応みねこを引きつれ、連れ合いとともに川崎まで電車を乗り継いで行きました。
まあ、みねこだからと、私たちはなめておりました。相手が嫌がってもみねこは気にせず「きゃああ」などと一方的に盛り上がるのだろうと。ええ、舐めすぎてました。
みねこは猫キャリーから出されたとたん、今まで聞いたことのない陰気臭く、底意地の悪い呻り声を上げ気合のこもった威嚇音を吐き出しました。
お邪魔した2DKのアパートの床に鼻を寄せては臭いのチェックに余念がなく、みねこを目にしたとたん押入れに逃げた二匹を全く寄せ付けようとしないのです。

[編集]


ハンサムで頭よさげな精悍な体つきをした甘夏君が、気を遣ってくださった飼い主の方に押入れから出されても絶対みねこを視界に入れようとしていないにもかかわらず「なんでここにいるのよ」とみねこは、しゃあああと地響きのごとく呻って威嚇。
いや、縄張り荒しはあんたがやってるのよ。体はでかいが、おっとりで気弱な常夏君が「大丈夫ですよ」おろおろしながらみねこを窺っているのにも、「うざー」とドスの利いた態度で今にも飛びかかろうかという体勢に。まずい、まずいよ。というか、どっちもみねこのお気に召さなかったのなら、私の目当ての子をもらっていけるよ。などと浮かれた自分は人でなしです。
ふたりの写真を見た猫ボランティアの方が「このこはちょっと・・」と絶句したらしい子に一目ぼれだった自分は、見る目がありましたとだけは断言いたします。

三日の壮絶な拒否立てこもりを経て、なんだとう、と腹を立てるいわれなどないながら、むかつくほどけろっと「オレたち」になっていたみねこと、常夏あらため「ゆうきち」です。
やっぱり猫は三日で忘れる。我が家のおばかさんを汎用にするのは親バカですかそうですか。いまでは、生まれたときからここで一緒と認識している様子のふたり。
事情を話せばどんな可哀想な猫かと涙を誘う過去があるというのに、こうまでさわやかなバカを前にしては、同情などしようもなく。お前ら、運良すぎだろうと、飼い主さえ思い込んでしまえる日々ではあります。

[編集]

[前ページ][次ページ]
投稿する

[戻る]
















[掲示板ナビ]
☆無料で作成☆
[HP|ブログ|掲示板]
[簡単着せ替えHP]