山里紅包粽子/島野律子



猫編8

同人誌「プラスマイナス」107号掲載作品

みねこの精神生活(や、あるとしたらですが)はすっかり平穏になったものの、ゆうきちにはまだまだ問題が続きます。
こいつは悪いことをして叱られるといきなり「僕は嫌われました」とショックを受けやがるのです。いや、だからね、障子で爪とぎはやめてって言ってるだけでしょうが。理不尽な虐待を長く経験している猫に対して、躾はなかなかに困難です。
ただただ「嫌われた」と思い込む。こんなに大切にしてるのに。ああ。まったく信用されてません。ショックで固まった数秒あとには「僕は傷つきました。慰めてくださいっ!」とふかふかの腹をぐっとのばして撫でを強要するゆうきちです。
はいはい。あんた、ほんとに毛が柔らかいねえ。ウサギの手触りまんまだよ、すごいよ。つか、なんなんでしょう、この臆面もない被害者面は。
おまえオヤジ臭いのは顔だけにしておけよ。まったく世におやじがはびこることのない隙間は存在しないものなのでしょうか。いつまで続くのかなあ、これ。なかなか堪えるやり取りです。
しかし最近、ゆうきちの態度にちょっとばかり変化が。いえ、爪とぎは相変わらずで、我が家を訪問してくださる方々は、この惨状も笑って見逃してくれるに違いないともう、あきらめてはいるのですが。それでも一応、やめてーゆうきちと言わざるを得ない場面もあり。
そうするとゆうきちは「何をするんですか」冷たい一瞥をこちらに向け怒ってる、怒ってるのかよ。いや、怒ってるのはこっちだぞ。
「わかりました、ではどうぞ」気を鎮めるようにと、むやみと偉そうな目つきでごろんと腹を出すわけです。「撫でていいです」そうよね、嫌われないって、分かってくれたのよね。良かったよ。ほんとうに、よかった。よかったけどねえ。
なんで、あんたはそうまでオヤジ臭いんだ。ごろごろと喉を鳴らすゆうきちの大変心地いい手触りに、納得しがたい気分を抱えながらも、我が家の猫って世界一かわいいわよねーと素で呟いていたりする日々なのでした。

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