山里紅包粽子／島野律子
猫編9
同人誌「プラスマイナス」108号掲載作品
なんで、猫への気持ちというのはこうも強いのか。尋常ではございません。
色々獣は飼ってきましたが、この骨の奥からの激しい執着は他ではなかったものでした。
不思議です。チンチラやモルモットには尊敬というか尊重というか、自分とは違う存在への敬意みたいなもんが、さらさら当たり前に湧いて出るんですが、猫へは、や、それどうだよな庇護者としての自分というか「このこたちは、わたしの命だああ」っていうんですか。闇雲な情の噴出です。
ちっとも通じないのに。（少なくとも我が家の）猫は、「うざあい」引いているのに。とか書いてたら「ボクは目が覚めました。撫でて下さい」とゆうきちに呼びつけられました。
ああ。でもすでに餌食ってます。不満声をヒトに向かって発せられれば気が済む模様です。
そしてまた、みねこの悲痛な泣き声が廊下の端であがってます。
いったいどこで覚えたんだ、それ。ほんとにかき口説くように訴えるとしか形容しようのない声ですが、見てみると顔はごく普通の不満顔。いつものみねこです。まあ、鳴いているので、乱杭歯更にむき出しですが。
この声だけは、色々だめなみねこちゃんのくせに日々上達の跡が見えるというか、技を磨いております。ゆうきちはやらないので、これはみねこの独占技です。ハハ猫からでも教わったのでしょうか。そしてそのハハ猫は無事にどこかで生きてるのでしょうか。
謎の似合わないみねこちゃんにはなぜか謎ばかり。どこをどう見ても幸せな子猫時代を過ごして来たようにしか見えませんけれども、ゆうきちと違って。
そしてこの悲痛な声は要するに獣たちのいる部屋のドアを開けろという要求でして、獣は毎日、みねこの「なによう」攻撃にさらされております。
だから、あんたとは分かり合えないんだよ、チンチラおやじもモルモットのお嬢さんずも。
そしてヒトとも猫ともなんだか分かり合えはしないように思えるみねこさんは、それでも最近かなりご満悦な様子です。エアコン暖房の暖気溜りのせいかもしれませんけれども。
[編集]
そしてそんな猫どもの姿をとどめるべく、失業からダメな転職の末にたどり着いた職の、やっすい賃金などあっさりかなたに追いやって買ってしまいました、広角レンズ付デジタルカメラ最新鋭最高機種のひとつ下。
猫二匹ですから、広角必要です。ええ。家庭用コンパクト機ですけれども。お約束どおり「四百枚くらいは入ります」というカードが、二ヶ月で一杯ですよ。
携帯電話を所持していない自分、デジタル写真などどうするつもりなのか。
みねこの容姿のアレソレは、何度も何度もくどくどしく書いてしまいましたが、ゆうきちもまったく負けていません。
頭には、半分耳にかぶさり、半端に襟足を覆うようなどう見ても間違ったハゲ隠しカツラ、背中には、一箇所だけのゆがんだ楕円模様、そして唐突に真っ黒な容赦なく長い尻尾、よく見れば、両後足のかかとに小さな黒ハートマーク、まあ、前脚もかよ。
こっちは、ご丁寧にひとつ離れた肉球部分だけ黒です。全部真ピンクのすべすべ肉球だと思ってたのにさ。なんというか、ひとつだけならチャームポイントと強弁しても、笑って受け流されもしなくはないのに、ここまで連なれば狙いすぎてついうっかりにも程があるというか、積み重ねがより深い墜落に向かっちゃって、どれをどう回収したらいいんでしょうねえ、こりゃまいったねなのか。
真白い顔には、黒々とのさばる目やに鼻くそまであって、しかも顔が不自然にでかい。まあ額、広いねー、ゆうきちったら。なに眉間にってあんた眉はないか、くっきり縦縞寄せてるのよ。子猫なのに。おやじくさいですよ。ゆうきちくん。
それにしても、いったいどうやったら、私らは本気でゆうきちのことが大好きで、気まぐれに嫌ったりすることなんかあり得ないんだと信じさせられるのか。
何かといえば「ボクは嫌われました」そんな心の声が高々と聞こえる様子で、ぐるっと、でかい顔を振り向かせ私達を窺ってきます。その微妙な距離は何だよゆうきちよ。
私達が折檻するとでも思っているのか、おまえは。こんなにかわいがってるのに、信じてもらえないとは。ちょっと私らの足音が大きかったりしても「ボクはいじめられてるのですか」そして壁紙やら障子紙やらに爪を立て。もう、そっちはいいんですけど。とうにあきらめたので。
そしてこれも諦めましたが、こんな調子ですんで、躾というかテーブルに乗るのもゴミ箱を押し倒すことも炭酸入りコップに顔を突っ込むのも、腰を一瞬浮かした隙に椅子に飛び乗ってくることも「それはやめてね、ゆうきちくん」と説得することはできないのです。
でも、その被害者面はやめてちょうだいね。ゆうきちくん。私の尻に敷いたのは確かに悪かったけれどもさ。ねえ。
[編集]
[前ページ][次ページ]
投稿する
[戻る]
[掲示板ﾅﾋﾞ]
☆無料で作成☆
[HP|ブログ|掲示板]
[簡単着せ替えHP]