山里紅包粽子/島野律子



猫編11

同人誌「プラスマイナス」110号掲載作品

みねこと出会ってからとうに一年は過ぎ、「常夏」だったゆうきちを迎えた日も夏だったなあという記憶がしっかりあるものの、陽気が夏だっただけで実際は五月中でしたので、そろそろ季節も一巡り。ワクチン接種と定期健康診断をしてもらいに行ってまいりました。
体重はみねこ三・八キロ、ゆうきち五・二キロでああ。飼ってた猫なんてね、二キロが普通だったのよ。

キャリーに入れられた猫の雄叫びってのはまた、これ聞いてなぜ人々がわらわらと集まってこないのか、このマンションの危機管理は大丈夫なのだろうか。本気で本末転倒させられます。タクシー利用したんですが、運転手さん微妙に猫嫌いだった模様で、車内でも止むことのない、ゆうきちくんの野太い恫喝に恐縮仕切りです。
いえ、本人恫喝のつもりは全くなくただただ怯え腰が引け叫ばずには耐えられず「どういうことですか? どういうことですか!」パニックだっただけなんではありますが。
面識のない方には分かってはいただけませんでしょう。ただの凶悪性悪猫。ほんとに不憫よのう。見た目だけでも、あんまりなのに。ヒトに誤解を振りまくタイプ。こんなにヒトを切ないほど慕っているのにねえ。
でもいい加減黙ろうよな、ゆうきち。
チンチラたちもお世話になっているちょっとばかり遠距離の動物病院、最近派手な改築と新たなスタッフを抱え、広い待合室も一杯です。うーん、十年前はよくある家族経営の町の獣医さんだったんだけどなあ。
副院長に診察をお願いしたかったのですが、予防接種ということでやってきたのはお若いお兄さん。まあ、致し方ございません。感じいいし。
まずはみねこか。診察台に無理矢理引きずり出しましたら、すっかり不機嫌顔でちょっぴり美人ぽくなっているみねこです。予防接種前の診察ではじめの心音確認中にささっとブスい、いつもの顔つきに。体温計を肛門に入れるときも全然騒がず、内臓の触診されてるときなんて「あらいいじゃない」ご機嫌でございます。薬を取りに獣医師が出て行った診察室後部のドアを未練たっぷりに眺めております。
注射器を抱えて戻ってきたお若い獣医師を、身体全体ぴかぴかうっとりとなって見上げております。いまにも注射器を持った手に体当たりですりすりしそうな勢いです。
あんた、そんなにお若いお兄さんが好きなのかっ? ゆうきちの元の飼い主の方が、拙宅を訪れたときから疑ってはいたんですが、みねこちゃん若い男性に対してこう、次元の違う懐き方をいたしますです。そうかみねこ、あんたの不満顔の原因はそこか。いろいろ悩ましいです。

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