投稿日12/29 13:39
「そして 今」
鈴木 琴実
オンナは、込み上げる混沌を抑えながら 噛みしめるように吐き出した。微笑みを交わすだけの長い沈黙を破り、唐突に。
「最初の頃って グルグルあてもなくドライブしてたでしょ?その時、{この女はヤレル}って思わなかった?」
オトコも、落ち着いた声で、ゆっくりと言葉にした。
『そんな事は思わなかったな。考えもしなかった。ホテルに行こう、て言って欲しかったの?』
「・・・・・」
「そうじゃなくて、あの時 私から ホテルに誘わなかったら、今 こうしてないんだろうな、と思って。」
一呼吸置いてからオトコは、今度は少しはっきりと、言葉にした。
『それは分からない。分からないよ。そんな深刻に考える事じゃないよ。』
オンナはそっと、目を伏せた。
抱きしめているオトコの左腕を、折ってしまいそうなほどに更に抱え込んだ。
オトコの口から聞いた答えは、オンナにとっては意外なものだった。
『そうだね』でも『じゃなかったら自分から誘ってたね』でもなく、『どうだったろうね』でもなかった。
けれどもオンナはとても嬉しく、感動すらしていた。
…だから、この男(ひと)なんだ。オンナはやっぱり幸せを再確認した。
Dec.29.2013
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