投稿日01/11 02:28

「シュラバラバランデブー」
鈴木 琴実

『あの…△△△(源氏名)さん ?』

昼下がりの仕事中、私用携帯に突然かかってきた、年配とおぼしき女性からの電話。
…奥さんだ。

急いで席を立ち、それでも周りが変に勘ぐらぬよう、努めて平然を装い、屋上へと向かう。
「はい、◇◇◇(源氏名の姓)ですが。」
『えっと… … … 鈴木さん、ですよね?』
「… … ええ、鈴木です。失礼ですが、どちら様でしょうか?」
『えっと、北別府です。』

…ビンゴ。

なるほど。本名をご存知なわけね。さて、何をどこまで話して良いものなのかしら。
でも、不思議と芯から落ち着いていた。それどころか私の奥底で、素の私が首をもたげ、うっすらワクワクし始めていた。

相手は当然、動揺しまくっている。こちらの方が断然 分がいい。もたげかけた首を押さえ込み、素早く先手を打った。

「こんにちは、初めまして。いつも北別府部長には大変お世話になっております。この度は大変でいらっしゃいましたね…。その後、部長のお加減は如何でらっしゃいますか?」

『あ…ええ、まぁ、大分落ち着きまして、ゴロゴロしてました。今日から仕事へ復帰しました…』

「ええ!?大丈夫なのですか?それは奥様、心配ですよね…。先月暮れに、部長から御電話を頂きまして、退院をしたからと。なんでも、お出先の電車で倒れられ、そのまま入院されていらしたとか。お電話で伺って、もう、びっくりしました…」

『ええ、まぁ持病からの事ですので…。』

「以前から持病を抱えていらすことは伺っておりましたけれど、お出先で倒れられるなんて、奥様もびっくりされましたでしょう、大変でしたね…」

仕事初めの1月の空は、雲一つなく青く晴れ渡っていたが、朝の天気予報で今冬一番の寒さと謳っていた通り、眩しい日差しとは不釣り合いに、空気も風も凍り付いていた。
特に、屋上を吹き抜ける風は、強く冷たい。上着を羽織る余裕すらなかった自分に気付いた。私もやっぱり、少なからず動揺していたのだろうか。

とにかく、早く引き下がってくれよ。
寒くて仕方がない。
休み明けのその上に締めで、仕事も忙しいのに。

『あの…少し、お話し、宜しいですか?えっと…』
「ええ、今、月金の仕事中ですが」
『お仕事中、ですよね、えっと』

寒くて寒くて、しかも仕事中と知っているだろうにこうしてかけてきて、切ろうともしないこのオンナに少し苛立ちを感じながらも、絶対的な優越感も拭えなかった。

「どういったご用件でしょうか?30分とかからないお話でしたら、今ここで伺えますよ」
『お仕事中、ですよね、ごめんなさい、あの、少しお話を聞きたくて…』
『主人とは、前のお仕事で知り合って…その…立川のお店に、主人がお客として通っていたのですよね。それで、今の土曜日の主人の仕事をされているんですよね』
「ええ、そうです。あの…正直、人様には言えないようなお仕事でしたし、幾らお話ししても信じて頂けないと思いますが…」

そこまでご存知でしたか。彼らしい。なるほど。私のやるべき事は…。

「もし宜しければ…お時間を作って頂けるようでしたら、直接お会いしてお話しさせていただけますか?お電話では、なかなかスッキリとはいかないでしょうし…」

『そうですか、そう言って貰えてなんか、嬉しいです、ありがとう…』

締めで残業になるから、今日明日では時間が作れても夜遅くなる事を伝えた。彼から、夜に滅法弱くて21時には寝てしまう、と聞かされていたその彼女は、意外にもその夜の20時30に駅で待ち合わせるという事で快諾した。




Jan,6,2014

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