水のための夜



 


屋根をなくした家に
夜の雨が檻のように
まっすぐ床に落ちて、
割れていく。
割れては溶けて、
溶けては
テレビの前の
三角座りをした子供達を、
溶かしていく。
子供達は笑いながら、
足首から消えていった。

沸とうした水が
キッチンにあふれ出す。
白い気体で満ちて
その中に母が
ぼんやりと立っている。
何か喋っているのか、口が
ぼよぼよと揺らいでいるが、
ブザーの音が鳴り響いて、
声は
聞こえない。

ベッドの上だけが
乾いていて
白い子猫が転がっている。
皺寄り沈んだシーツの
真ん中から、
濡れた鼻先が
あらゆる水を匂っている。
何の意志もなく、
匂われる水。

マグカップが空に
かえってから、
夜はずいぶん短くなった。
手の平で水を掬い、
その最後の一雫が喉を
とおったとき、
子供達は
輪郭をとりもどし、
母は
「あーああー」と発声し、
白い子猫は
排水溝へと飛び込んで、


水のための夜は
風のための朝へと
ひらかれていく。

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