starfish<はじまりの手紙>



覚めるときはいつも海でわたしは
十一月の青のなかでヒトデだった、手を握れば
かんたんにもげてしまうけれど
手品ではないけれど
わらってくれたらうれしい

 *

太平洋のはずれの田舎でうまれて
流れついた潮だまりは意外に住みよく、
料理のひとつもつくったことなどなかったのに
最近では柄にもなくクッキーなんて焼いている
いきものはみな
やさしいから
うまくやっているから
ひとり、野良仕事をして
ひとり、暮らしている父に
心配ないよって
云いたい

 *

お母さんはわたしを
うんだときにしんだのだそうだ
(双子の姉もともにしんだと、聞いた)
そのことをヤドカリの先生に話すと
最早あなたのかなしみの範疇ではありませんから、と
放っておいて問題ないです、と
きちんとおっしゃられた
窓際、ペットボトルの水がきらきらしている
先生の頭のうえには
あかやあおやみどりの球がうずまいていて
台風三号かしら、なんて、首を傾げていると
では今日はもういいですよお大事に、と
先生はべろりと親切を吐きだし殻にもぐりこんだ
(吐瀉物のちんもく、)
それから繊細のはさみで
カルテに、器用に文字を著していくのだった
色とりどりの球が殻のうえ、いっせいに落下する

眠れるお薬を拒み
雨上がりの煙る、帰途にのど飴を購う
サンダルの底のぺらぺらをわざと鳴らしながらあるき、
檸檬味のすきとおる色を右頬から
左頬にうつすと
あたりまえに右頬がしぼんでさみしいから
寸刻に、ざりざりと噛み砕いてしまった

 *

   *

波打ち際にまばらに
人間のいる、その後ろで
影はひそやかに
飛んだり踊ったりして、遊んでいる
夕陽がひとしく暮れてゆき
みな、まぶしいと云う
わたしもずっとまぶしくて眼を
あけられずにいる
手を、握ってくれたらいい
いつ離してもいいように
握って、

 *

もしも、わたしたちが星だって云うのなら
〈きりん〉も〈こぐま〉も
波の泡のなかに置きざりにして
軽くなったからだを
オーブンにして
やっぱり
クッキーなんて焼いたり
するのだろう

  あまい匂い、







           「「十一月の終わり頃にはみな、冷めてきれいに出来あがりますだからわたし、もう少しだけ、待ちましょう


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