過食




おかあさん、おかあさん
今夜は大変に冷えるのだから
お外へ出てはいけないの
祖母の背中をひっぱる母の腕の
あおくそしてあおく
亡くなったもののよう、を見つめ
わたしの中指は檸檬のハチミツ漬けを
つまんでいる
とても甘いのだと云う

人さし指は思いだすように
そういえば、と
そういえばあまり妹はおいしくなかった、と
喋りはじめる
特に肺胞なんて饐えていて
身内だから、などと
ゆるせる味ではなかった
(だからなんども
 煙草はやめてほしいと
 頼んだのに)
ねえ、そう思わない?
手相がゆわりと曖昧に、わらう
べとついた他の指は
口をつぐんだ

冬がくると
ぶらさがるはずの涙で
柔らかいものたちをころすから
庭はあまり寒くない
寒くないので
わたしはうごめくのだった
首をおとした椿を
くらい軒端にならべる
ひとつひとつ崩さず、
受粉を終えた彼女たちを
はずかしめるようにして
少しばかり
土をちりばめる、
きれいな墓標ですね」祖母が
風に揺れている
七年前の、祖母だ

唯一わたしを食んでくれた
父も食んでしまってひさしい
食まれた右足首は
父のものを奪い、縫い、繕った
(まだ感覚はない、)
家族の問題だから
世界とはなんの関係もなく
わたしが妹も父も消化しましたと
ためらわずに云える
背を伸ばして云える
そうしてまた
腹がへるのだけれど
涎を垂らしてなお、云える

黴びた匂いの台所で
果物ナイフを探している
あまりに冷えたつまさきが未明、
母を亡くそうとしていた



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