on the shore




料理のさしすせそ
覚えて
最初に作ったのは
砂の城
でした、寄せる波に
少しずつ
洗われて少しずつ
崩れてゆく
ね、そうです、ね、
間違っている
ものばかり繁栄させるの
とてもしあわせ、

宇宙のぐるぐる
渦巻いているところにさ
光とかさ
全然、在り得ないってとこにさ
いるみたいだなって
恋人は眠る寸前に呟き
私が(何故、)と訊ねるより先に
銃に撃たれ死にました
そして
私も今殺されようとしています
口に汚らしい布
つめこまれて枕を脳に
押しつけられて冷たい球形の
暗やみを受けとめようとしています
ありがとう殺戮
どういたしまして死骸

霧雨の日には喪服を着る
日蝕の日には喪服を着る
誕生の日には喪服を着る

真白いベッドの上に
死骸をふたつ置いて
私の魂は窓を開け風を通す
昨夜に干した黄色のパンツが
ひらひらしている
恋人の魂を水筒に流し込み
会社へ向かう
ラッシュアワーを避けた
安全な電車に乗って
向かう
向かえば着き
着いた回転ドアをくぐり
優しい高層ビルを昇る
小さなオフィス
可愛いオフィス
部長が電話でわたわたしている
後輩の女性(21)が給湯室で無表情でお茶を淹れる
私は恋人の魂の入った水筒を
胸に抱き
立ちつくしている
席には菊が号泣している
しばらく、して
花びらちぎって
ちぎりとおして
退社した

     「ねーねー知ってるー? 料理のさしすせその「せ」ってしょうゆなんだってさ「えーマジー?「でしょでしょーこの間の中間テストに出てさあ「えーじゃあさしすしょそじゃん「はは、超いいにくいし、あ、「そ」はみそなんだけどね「でもそれはなんとなく分かるよねー「うんうんそれはねーナットクって感じ「「ぐぐぐぐぐ「あれケータイ鳴ってない?「あ、佐藤からだ「遅いし佐藤、「もしもーし今どこー?

女子高生、
女子高生、
女子高生の会話を聞いて
初めて料理の
さしすせそ覚えて
だけれど家に帰る迄に全て
無くしてしまいそうだったから、
近くの海辺で
砂の城を作った
乾いた砂を水筒の中身で
濡らしながら固めて
屋根のてっぺんに細い枝
刺す頃には、指先
だけしか輪郭なくて
それでもやっと
作った
作ったそばから
波がさらい
壊れるけれど、
覚えている
さしすせそ
遠くで
紅と白の
煙突から煙、
あれは私たちが燃えて
いるんじゃないけれど、
お祝いみたいで
すごく善い、

 ありがとう
  どういたしまして


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