前夜のこと




茜色の飴を
いとしい人に貰って
大事に手のひらに握っていたら
いつの間にか空に溶けだしていた
あまい匂いの指だけが残って
蟻がぞわぞわと集まる

 ・

なつかしい音楽が流れている
車の中は暖房がきいていてあたたかい
わたしは後部座席で横になりそのまま
窓をみあげると
どこまでも連なる電線
運転席の父と助手席の母が
ぼそぼそ、何かを話して笑いあう
ちらちらと町の灯りに照らされて、遠い
置いてゆかないで

 ・

起きあがると
いちめんの麦畑で
穂がやわらかに肌を撫でる
子供ではないのだからと
たしなめられる子供の表情で
わたしはスカートをはたき
立ちあがる
大人達が夜な夜な
ミステリーサークルをつくりはじめること
なんて
知らないふりをして

 ・

ふと隣を確かめると
ましろい犬がついてきて
ともに歩いている
どこから来たの、と訊ねれば
首を傾げて知れないけれど
こちらを窺いながら
ついてくる
古ぼけたアパートの
開け放たれた窓からひらひらと
落ちる皿、コップ、花瓶、
踏みしめて
血だらけの足が
六本、歩く

 ・

空をみあげると
月が雲ににじんで
恥じらうくらいにきれい
目を閉じたら
思うより風がつよくて
凍る、やさしいものから
まつげに霜が降り
だからもう覚めたり
しないでいいの




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