ふゆのてがみ




床下にはたくさんの首があります
頭はきちんともいであります

首のちょうど喉仏のあたりに白い紐を結んであって
それの端のほうに血のいろで
ひとつひとつ数がふられていました
わたしの小さい頃からずっと、増え続けていて
十ニ歳になった春には、いよいよ千を数えていました

ある日、とつぜん母がいなくなり
父にどうしたのだろうねと
訊ねてみると黙ったまま、指で「床下に」と合図しました
おそるおそる
床板を(かたん、と)はずして覗いてみると
まだなまあたたかく
血抜きされていない首が
夥しい乾ききった首のうえに置いてありました
首筋に三つ、
オリオンのように並ぶほくろがあって
ねえ、わたしは母のこと
すぐに分かったんですよ、

夏には首のひどく腐ったにおいがして
だからわたし
あまり夏をすきではありません
母が首になってから
ごはんは五日に一度になり
父の購ってきたカップラーメンを
すすっています
(生きるのが、とてもかんたんな仕組みでよかった)
水道はとめられてあるので
家の横にある溝の汚水を汲み
それを飲みます
けれど夏には溝が干あがってしまって
だからわたし
あまり夏をすきではありません


「おかあさん、このいえ、きもちわるうい
「しっ、聞こえちゃうでしょ
「うぐ、
「いそがないと学校おくれるわよ

「友達できてよかったわね
     」

ヒトビトはなぜか必死に眼をそらして
家のまえを通って行きます
玄関に座りこむとヒトをたくさん見ることができるから
すきなばしょです
ついさっき通り過ぎたのは「オヤコヅレ」というのでしょう
そういえば、
「ガッコウ」というところには行ったことがなくて
「トモダチ」というものを見たこともないのですが
それはどんなかたちをしているのでしょうか
父や、かつての母みたいに
お話ができますか
首だけなんてこと、ないでしょうか
もしも
お話ができたなら
トモダチというあなたのこと
たくさん訊いてみたいと思うのです

どんぐりがととん、ととん、と
軒を鳴らす頃
父は紺いろのきちんとした服のヒトに
連れていかれました
わたしは屋根裏のつぼのなかに隠れて
じっと息をころしていました
やがてしずかになったあと、つぼから這い出て
木の壁の虫食いからそっと
父とヒトの後ろ姿をみとめ
今、こうして手紙を書いています
あなたに宛てて
 
庭にはジャノメエリカの
きれいなことと思います
わたしはきっとすごくにおうでしょうから
視界だけでもうつくしかったら
さいわいです
頭はもいで
身体は切り離して
つぼのなかにいれています

あなたはトモダチですか
お話ができますか

わたしの首の祈りです



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