ジューン・ブラインド




ジェーン、ジェーンと
いなくなった犬を
さつきが探す。
ポニーテールにした髪を
タポタポと揺らしながら、
口元に手を添えて
甲高い声で叫ぶ。

馬鹿野郎、俺はジューンだ
そう言い返してやりたいが
生憎、雨に埋もれて
それどころではない。

雨が
コンコンと頭を小突く。
その度、雨の中に
体が押し込まれる。

おい冗談じゃねえ、
俺は犬として
まっとうな人生を、
たとえば
石焼き芋を売るおっさんが通り過ぎたなら
遠吠えをして、
たとえば
1×1は?と問われたら
ワンと答えたりするために
犬になったんだ、なあ、
そうだろ


犬神家なんて見るから
きっと祟られたんだわ、
ジェーンごめんね、と
さつきが呟く。
前髪は額にぴったりくっつき
瞳がひっそり潤んでいる。

だから名前が、

思う間もなく
最後の一雫、頭の上に
落ちる。
隠される。
犬掻き、犬
、い




雨が上がれば
さつきはすっかり乾き、
探していた犬のことを忘れ、
忘れた瞬間、
正しく名前を発音することが
できる。


ジューン、
  ジューン



六月は足下の水たまりに
そっと、息づいている。

[編集]
[*前][次#]
返信する

はなのかんむり






















[掲示板ナビ]
☆無料で作成☆
[HP|ブログ|掲示板]
[簡単着せ替えHP]