たえがたくうたわれたうた



夜の海に、ひとり
浮かんでみる。
埠頭の明かりは橙色で
わたしの肌は
それをよく吸収した。
母からの手紙で
浅く切れた
ひとさしゆびだけが
沁みている。


星座をつなぐ。
知っている星は少なく
すぐに終わる。
知らないひかりには
触れることはできず、
数秒後
忘れてしまう。
届けばいいのにと
腕をのばす、
けれど、その分
体は沈もうとするから
やめた。


わたしはもう
果てがないものを
探さなくなって
網脈のように広がる
髪だけが
確かにここにいて
それだけを信じていて
海からは明らかな
異物として拒まれる。


お母さん、
あなたが台所で
林檎を剥いているとき
子供は
洗濯機の中で
まわっていたのよ。
きれいな生きものに
なりたくて、靴下と一緒に
まわっていた。


水のうたがきこえる
もっと深くへと誘っている


たえがたくうたわれた
ひとひらのうたは
冷たい頬を濡らし、
それでもわたし、
身じろぎ一つせずに
まばたき一つせずに、
橙を反射する
水面になっていた。


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