解凍パニック



朝やけをこっそりとみて
カーテンを閉める
ひかりにあたると
とけてしまうから

『ごはんよ』
おかあさんがリビングから叫ぶ
くまのかたちの
だきまくらを腕にかかえたまま
階段を降りる

窓ぎわの観葉植物は
何でとけないのかなあ
家族のそろう食卓には
凍ったものばかりがならぶ
まっくらな わたしたち

おとうさんは
しごとに行かない
座敷のたたみの目をずっと
かぞえている
たまに顔をあげたかと思うと
障子にぽつ、と穴をあけて
また かぞえはじめる
 おとうさん
 わたし こうえんに行きたい

郵便受けにとどく
手紙やはがき、しんぶん
それをとりだして机のうえに
おいておく
それが唯一のしごと なんだ
決してひらかない
げんかんの前にすわる

おじいちゃんは夜になると
ベランダから飛び降り
かいものへ行くらしい
滑空する姿は
だれもみたことはないけれど
スーパーの袋を両手にもって
窓から駆けこんだおじいちゃんを
みたことがある
とけかけた瞳から
ぼろぼろと液体がこぼれていた
あとつぎがおらんかのう、と
つぶやいていたっけ

『ごはんよ』
おかあさんの声がきこえる
どこからだろう
リビングのほうからではない
ううん
家のなかからでは ない

目のまえの
げんかんのドアがゆっくりと
にぶい金属音とともに
ひらかれてゆく





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