泳ぐことができたら もしくは、




教室の窓際
一番前の席の男の子は
点滅する電気の明かりを
鬱陶しそうに眺めている
鉛筆をくるくる
まわして
下界を見下ろせば横断歩道
黄色い傘の
くるくると、まわって

算数の時間、
机の中のリコーダーに
話しかけては
笑う女の子
リコーダー、曰く
“私はプラスチックで出来ているから、火葬にはしないでね”

眼鏡をかけた先生は
円周率を黒板に書きなぐる
薄桃色のマニキュアを
短い爪にうすく塗ってあるのが見える
31行目にさしかかった途端、
手を震わせ
うわああ、と窓を割って
飛び降りてしまった
割れた窓から
先生のくたびれた腕だけが見えた

女のひと、という現象は
いまだ解明されずに
教卓の花壜の底に沈殿している

私は黒板に残された乱暴な痕を
目で追い、
ノートに書き写す
ぐんにゃ り
しなっていく数字、
雨漏りする教室
うるさく片耳を手で覆いながら
書き写している
外は
校庭は
とても静か
 ブランコがきいきいと
 触れるように揺れて、

浸水する教室から
あなた達は何故
逃げようとしないのか
くるぶしが沈んだら
水音の、

井戸みたいね」
覗き込んだら、くっきりと
輪郭がみえるの
影から唾液がこぼれだす

 括弧がほしい、
 脊椎や喉、肌の匂い
 ばらばらになりそうなものを総て
 きつく結んで
 表面、の奥に
 放りこみたい

携帯電話がくつくつと
溺れている
まっくらな画面
水は均されて広がって、
みるみる私は浸される
既にみぞおちあたりまで
腫れぼったいどうぶつになった
灰色の毛並みの
なびいて
草原にいるような気持ちになる
そっとお腹を撫でたら
思いのほか柔らかくて少しだけ、かなしい


 泳ぐことができたら
 もしくは、


砂浜にうち上げられた白骨にも
空はあったのだろうか
瞳の穴から星の抜け殻が
舞っていく
まばゆい日射しの後ろがわで
うまれたばかりの子どもたちが
滑空を繰り返している





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