雪、ゆく




欠けない瞳で
遠くに戯れる風のうたを聞く
正確に埋め込まれた海岸の、
まっくらな砂の上をゆく
斜め前に犬の呼吸が弾んでいる
時折ふりかえる垂れた舌がぶれる度に
私の輪郭も次々とかたちを変えた
シリウスの星ひとつ分からないまま
かろうじてつないだのは
首輪と手のひらで
たゆんだ線は夜行列車のように
ゆっくり、また、揺れている
つっかけてきたビーチサンダル
冬は少し
凍みすぎる

か細い白い枝が重なって
打ちあげられている
干からびた腸のようなそれら
の一本を掴んで引っぱる
瞬間、折れる
折れた、のは私の左腕だった
肘より先が
トサン、と落下して
指先が蠢く
断面は半分の月に照らされて
とくとく血液を流した
打ちよせる波
腕/あぶくの中にさらわれ、てゆく、水の上
待っている岸があるから、ゆくの
だろう

突然
駆けだした犬のそれぞれの
足、に
追いつかない
転倒して引きずられ
手からリードを離した
チカ
チカ、という音
首輪の金具がさみしく光る
遠ざかる尾

空、あかつきの
隙間の透きとおった色に
吸い込まれ
次第に消えていく犬
遠吠えの響く底なしの空から
せかいに零れる、淡い
波打ち際に臥した私にも
同じように、雪の
凛とした粒子がかすって
ぬくもりのほうへ
かえって、ゆく






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