うまれるまえに





雪が降るから傘は白い
くちびるがやけに赤いよ、君の
薄氷の瞼がひとときでも
冬を知っていたなら
アネモネの花を
いちりん、あげる

初めて書いたにっきを捨てられない指先で
曇った硝子をなぞる
ぼんやり、つたない輪郭の暗やみが浮きあがり
水滴の先には夜行列車が
町の明かりにまぎれて
ゆらゆらと遠ざかってゆく
『雲に のりたい』
おさない文字が毛羽だって夢をみている
だいじょうぶ
もう いつだってのれるよ
水晶体の中であそんでいた星たちが
ひとつ、またひとつ
消えて

河川に沿った小道を
ブーツの底がぽくぽくと歩く
ふと どこからか
たまごの匂いがする
うまれたての たまごの
あまく焼かれた匂い

炭酸水を土の上にこぼしていく
ひかりを集めて
土に触れた瞬間、
沸とうして泡だつ
飛び散る、音
ハンカチをどうぞ
それでそっと襟足をぬぐったら
清涼なこえで 泣こうね

何度 朝をむかえても
かえらなくて いいの
さんざめく波のような風が
街路樹を揺らして
木の葉のはしった方向は
遥か、遠く
いつか、のやくそくを忘れていく温度に
小指が僅かにうごいた

クラクションが鳴り渡り、白けた空に反芻する

ちっそくする町
おぼれた体はどこへ行ったの
ひざこぞうだけ 妙に
つめたい





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はなのかんむり






















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