はるか




はるかちゃんは夜、ねむらない
そういうときはポトフをことこと煮込んで
窓ぎわに置くのだという
冷えていくポトフを
三角に座って眺めているうちに
温度は朝にかえっていき
新聞は郵便受けにおとされる
かたん、という音

月は薄い
薄いシールみたいだから
はがせるものだと、思ってた
ほほえむはるかちゃんは
少し眠たそうに目をこすった
白い猫が塀の上を
つくつくと歩く
しっぽの揺れる端に
日が眩しい
眉をひそめて
睫毛をそっと、ふせて
おだやかな寝息をたてる
時計の秒針がきざむ
春のキャベツはとても、あまい

赤いランドセルに
体操服はいれなくて
上履きもいれない、ことも
はるかちゃんは知らない
だけど空を指さして
「今日は雪、降るよ」という
寝ごとだろうか、
目は閉じているのだった

雪は降らない
教室の窓から見えるのは
すっくと背のたかい銀杏の木と
綿のような風の吹く空で
追いかけっこをするとんび
さみしいブランコ、
薄荷の匂いが
隣の席のおんなのこから
ただよって

折り畳まれたメモに
いっっぴきの犬を飼っている
破れかけたぶぶんは
少し毛羽立っていて、
触れようによっては雪に
思えた

家にかえると
はるかちゃんはテーブルの下
無数のとびらを作っている
ひらかれないとびら
何処かへ行きたいの?
訊ねると、
「お外、」という

少し困って天井を見あげていると
うそだよ、と呟いてひとつ
とびらを消した
わたし達のはるか
まんなかで雪は
降りつもる


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