とおい水
*
あんまり遠いので
ラクダに乗りました
首に水筒をぶら下げて
たくたくと
(ちゃぽちゃぽと)
歩いてゆきます
スクランブル交差点のうえ
*
嗚咽
する犬を飼っている
冬にうまれたから
やがて海になるのだと云う犬
ふうん、と相槌をうって
そして
仄暗い空に
かなしい、と書く
文字が垂れる
*
菜の花の揺れる
のは、何故ですか
おんなのこたちは
理由を知らないけれど
岬のような確かさを
もっているから
きっと大丈夫
素直な襟足を振りまいている
*
父の命日に八朔を剥く
少し眉間に皺を寄せながら
『さっちゃん』をうたう
あたしのお腹のなかには
水があり
管があり
子があります、と
お医者さまはおっしゃいました
父よ、あなたはもうすぐ
お爺ちゃんになるよ
母は庭で
そっと、飛行機の行方を指差す
*
水はどこにあるの
*
夢だったのかもしれない
落下してくる記憶を拾って
匂ってみるけれど
何ひとつ匂わないから
夢だったのかも、しれない
水が、あんまり遠くて
ラクダが日に溶けて
あたしは渇いて
交差点のまんなかに立って
水筒のなかを
じっと見ている
じっと、見ている
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はなのかんむり
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