夏にうまれる




日傘の陰にちいさな
鈴が鳴って夏はあかるく
なってゆきます
青くたおやかな風に
葉脈は波うって
けれどやがては、
おさまるようにわたしも
素直に日を抱いていたいと、
おもうのでした

 ・

川辺をあるくことが
とてもすきです
水鳥がはばたいたあとの
水面や、泡を
眺めている時間が、すきです
熱をもった土の蒸発、
モンシロチョウが
息をひそめる様子を
眼をつむっても
おもいうかべられるから
わたしももうすぐ
川辺のけしきになる
のでしょう

 ・

空、空、空、
繰り返してゆく四季に
いきるのはむずかしいと
蜩がなくのですが、
ほんとうでしょうか
あなたはいともかんたんに
フラフープをくぐって
尾びれをなびかせているから
いきていくのは泳ぐより
まったくたやすいのかと、
おもっていました

 ・

まきあがる砂嵐に
わたしのほねぐみはもろく
かたかたとふるえます
擦りあうすきまと
すきまの水に
空気が混ざってそれが
ひとつ、
ひとつ、
つぶれてゆく音です、耳から
ではなく、体内をつたわる
いとおしいふるえ、

 ・

おさない子どもが
タタンタ、と駆けて
階段を降りてゆきます
コンクリートの
石粒がひとつ、宙に
無造作に
ほうりだされて
たよりなさそうにみえた
のは、なつかしい
母のつくる夕餉の
においがふと
鼻をかすったから
なのかもしれません

 ・

日傘をとじて
もう陰のない足元をたしかめ
あるいています
わたしはすきなことをして、いきて
日の暮れるのをおしみ
手をふることさえも
できずにいました
けれどさいごは
家にかえるしか、
残されていないように
きょうという日も
きょうという日に
かえそうと、決意して
かなしんだあと、そっと腕を
あげてやわらかく、指を
ほどいてゆく
のです






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