Brownbear(暮らし)



ヒグマ、凍える氷の中にいる
君の遥か頭上に雪解けの水が流れ、
その脇には肉食や草食の、または雑食の
生き物が群れをなしたり単独で
暮らしたりしている

気に病むことは何もないだろう
幸い僕には
ささいな妻もいれば、二歳になる子供もいる
子供はテレビの中の
うたのおねえさんがすきらしく
おねえさんが体を左右に
ゆうらゆうら、と揺らすと
食卓の周りをはしゃいで駆け回ったりするから
君が気に病むことはないんだ
妻のキャミソールが空に高く舞い上がっている
まっしろい布は夏に映え美しいよ、
床にしゃがみぐずつく妻の肩を撫でる
、おそろしいほどなだらかな肩
そうしたら僕はもう、働くしか
ないよなと、眉山をなくしてわらうのだった
白昼、食卓に置かれた素麺は大抵いつも余り
排水口を流れて少しずつ、
天の川に織り込まれていく
明後日あたりには
彼方の銀河に辿り着いて、きっと
天文学者たちを席巻する
だから
君が気に病むことは何もないんだよ

ラジオのヘルツを合わせていくのは
祈りにとてもよく似ている
聞こえてくる声や音楽は
さしえ重要ではなく、聞くという行為で
僕はゆめをかなえようとしていたんだと思う
(はて、ゆめなんて大げさなものだったろうか)
(分からない)
ただ勿論聞くだけではかなえられるはずもなく、
息継ぎや発音などの研究も必要で
それは魚の鱗を削ぐくらいにくるしかった
空の底に家を建てて隠れて暮らすのは
僕たちがとても弱いからだろう
窓際のラジオに電磁波が届く
くるしい、

蟻の足を一本ずつ抜いてみせる友だちの器用な指先に魅入り、
こめかみの汗も拭わなかった
小学校からの帰り道が、ふとよぎる

 動けなくなった蟻が
 土の上
 バッタの祝婚歌を
 うたって

勾配の激しい森を抜けると
次第に視界がひらけ
コケモモやコマクサ、黄褐色の土、大小角張った石の影、硫黄の匂い、
雲は集散を繰り返して、速い
やっと立ち止まると
背負ったリュックがずんと重く
たまらず道の端に座る
お先に、と下山する
ふくよかな中年の女性―目尻や首筋に心地よい疲労が皺よっている、に
軽く頭を下げつつ、水を飲む
ひんやりとした感触が体の隅々、
血管を通り染みていく速さで巡った
長めの呼吸を二、三回してから
立ち上がる
急いではいけない、でも
のんびりもしてはいられないだろう

雲はうねりながら、巡って

砂をかんたんに叩き落とし
足下を確かめ再び、歩き始める
ざ、ざん、ざ、ざん、
すぐに足音だけのせかいになり
祈ることは無意味になってしまう
忘れられ、かなうこともないそれは
枯れて蒸発し
やがて冬になれば空から
連絡するから
降る雪に君は遠吠えを、

ヒグマ、僕ははじめてしぬからせめてやさしく噛んでくれないか
氷の中




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