椿




知っているかしら。
あなたの後ろで私はそっと、蕾を摘んでいるのです。
それを一枚、
また一枚と
ひらひらひらと
千切っているのを。

あなたは知っているかしら。
私の赤い服の下。
心臓よりもずっと奥、黒い灯りが
ゆらゆらゆらと
絶えず形を変えていること。

もしも私が花みたく、
雨にうたれて褪せるのならば、
眼を開けてしまうそれより前に、あなたが摘んでくれればいい。
そして手折れて千切られて、
ちらちらちらと
あなたの後ろ、真っ赤に染めた道になるのよ。


あなたは知っているでしょう。
今朝庭先で
首を切ったように
ぽとりと落下し、朽ち果てた、
春の木と書く私の名前。



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椿 ―推敲版―

昨日私のふくらはぎを濡らした雨が、今日の空の青へと還っていく。踏みしめた後ろの大地はそっと、ため息を洩らし続ける。

誰かがつけた足跡は
もう残骸となって、
かぴかぴになって、
新聞配達のバイクが
排気ガスとひき替えに
剥がしていった。



果てしなく黒に近い緑の葉の上、するりと滑った一粒は、
まるで点滴のように
まるで無表情の涙のように。

それが大地に沈むのとほぼ同時に、
ぽとりと落下し、朽ち果てたのは、
春の木と書く私の名前。



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はなのかんむり






















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