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[1] 路ばたの木立の蔭
By みう
08-07 16:19
なるほど、路ばたの木立の蔭にその人夫たちの住む小屋が長屋の樣にして建てられてあるのを見た。板葺の低い屋根で、その軒下には女房が大根を刻み、子供 が遊んでゐた。そしてをり/\溪向うの山腹に大風の通る樣な音を立てゝ大きな樹木の倒るゝのが見えた。それと共に人夫たちの擧げる叫び聲も聞えた。或る人 夫小屋の側を通らうとして不圖立ち停つた案内人が、
「ハハア、これだナ。」
と呟くので立ち寄つて見ると其處には三尺角ほどの大きな厚板が四五枚立てかけてあつた。
「これは旦那、楓(かへで)の木ですよ、この山でも斯んな楓は珍しいつて評判になつてるんですがネ、……なるほど、いゝ木理(もくめ)だ。」
撫でつ叩きつして暫く彼は其處に立つてゐた。
「山が深いから珍しい木も澤山あるだらうネ。」
私もこれが楓の木だと聞いて驚いた。
「もう一つ何處とかから途方もねえ黒檜(くろび)が出たつて云ひますがネ、みんな人夫頭の飮代になるんですよ、會社の人たちア知りやしませんや。」
と嘲笑ふ樣に言ひ捨てた。
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