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[1] 登り來しこの山
By みう
08-07 16:22
登り來しこの山あひに沼ありて美しきかも鴨の鳥浮けり
樅黒檜(くろび)黒木の山のかこみあひて眞澄める沼にあそぶ鴨鳥
見て立てるわれには怯ぢず羽根つらね浮きてあそべる鴨鳥の群
岸邊なる枯草敷きて見てをるやまひたちもせぬ鴨鳥の群を
羽根つらねうかべる鴨をうつくしと靜けしと見つつこころかなしも
山の木に風騷ぎつつ山かげの沼の廣みに鴨のあそべり
浮草の流らふごとくひと群の鴨鳥浮けり沼の廣みに
鴨居りて水(み)の面(も)あかるき山かげの沼のさなかに水皺(みじわ)寄る見ゆ
水皺寄る沼のさなかに浮びゐて靜かなるかも鴨鳥の群
おほよそに風に流れてうかびたる鴨鳥の群を見つつかなしも
風たてば沼の隈囘(くまみ)のかたよりに寄りてあそべり鴨島の群
 さらに私を驚かしたものがあつた。私たちの坐つてゐる路下の沼のへりに、たけ二三間の大きさでずつと茂り續いてゐるのが思ひがけない石楠木(しやくなぎ)の木であつたのだ。深山の奧の靈木としてのみ見てゐたこの木が、他の沼に葭葦の茂るがごとくに立ち生うてゐるのであつた。私はまつたく事ごとに心を躍らさずにゐられなかつた。
沼のへりにおほよそ葦の生(お)ふるごと此處に茂れり石楠木の木は
沼のへりの石楠木咲かむ水無月(みなつき)にまた見に來むぞ此處の沼見に
また來むと思ひつつさびしいそがしきくらしのなかをいつ出でて來む
天地(あめつち)のいみじきながめに逢ふ時しわが持ついのちかなしかりけり
日あたりに居りていこへど山の上の凍(し)みいちじるし今はゆきなむ

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